帰りの電車の中、剛君の事ばかりが頭に浮かぶ。

あの優しそうな笑顔、畑仕事をしているときの真剣な顔、食事をしているときの美味しそうな顔、冗談を言って私が笑ったときの嬉しそうな顔。

もう、会えないのだと思うと気が遠くなる。

しかし、いつか言わなくてはいけなかったことだ。もう、剛君の耳には入っているだろう。きっと、それで嫌気が
さして、もう誘ってくれないだろうし呆れているだろう。

これで良かったのだ。自分の蒔いた種だ。遅かれ早かれわかってしまうことだ。

ただ、剛君の事がこれだけ胸の中を占めているなんて想像以上だった。

失った悲しさと喪失感に襲われ、思いが詰まっていた胸のスペースが空洞になり、世に言う“ぽっかりと胸に穴が空いた”感覚を初めて味わう。

電車に揺られ家に帰り、いつものように家事を始めるが、苦痛でしかない。

心が元気でないと、身体も動かない。