土曜日は仕事が休みだが、夫は必ず出掛けていて、いつもの九時にしか帰ってこない。これは結婚してからずっとで、もう慣れている。

夢のような一日を思い出しながら、夕食の準備をする。

食事を作る際に、感情がなくなったのはいつからだろう。

「美味しい物を食べさせたい」「温かいものを食べさせたい」と思わなくなったのは、いつからだろう。

でも、今日は剛君の言葉や表情を思い出すだけで、嬉しさが込み上げ、優しい気持ちで料理を作っている。

自らの夕食はさっさと済ませて、パソコンを立ち上げる。

“木田(キダ)ファーム”と検索すると、今日、連れて行って貰ったビニールハウス内の花や畑の画像がトップページに設置されており、これだとわかる。

運営者には三人の名前が連なっており、ボランティアの人達だとわかった。剛君が挨拶していた人の名前があったのだ。

運営内容、ボランティアの募集記事もあり、扱っている草木の品目等も丁寧に記載されている。

それらの画像を見ていると“あちらの世界”に行きたいと強く思うけど、それは夢の世界で、現実は“ここ”だ。

落胆する気持ちと、勇気があれば行ける気がする気持ちと複雑に交錯する。

夫が帰ってくる音がする。平日は電車だが、いつも土曜日は車で出掛けていく。ゴルフか釣りか、結婚当初から興味がないので問いつめたことはない。

車のエンジンが停止し、靴音がして玄関扉が開く。

それと同時に、おみそ汁を温め、ご飯をよそう。

それらをテーブルに置き、リビングのソファーに座り見もしないテレビをつける。

向かい合って座っても会話はないので、夫もこちらの方が気楽だと思い始めてから、そうしている。
夫は黙ってご飯を食べながら雑誌を眺めている。

“あちら”と“こちら”の世界は近そうで遠い。