素直に種類にサインをすると看護師も笑顔で出て行った。
「電話しなくちゃ。」
部屋を出て1階にある公衆電話に飛び込む。
「あ、もしもし。燵夜くん。」
「月依さん!心配してたんだよ。」
受話器の向こうから安堵する声が訊こえた。
「ごめんね。急な出張が入っちゃったの。明日には、帰れるから悪いけど家のことお願いね。」
「駅に居るの?」
「え?」
「公衆電話だから。」
「そうなの。急いでるからまたね。」
「うん。気を付けて行ってらっしゃい。」
明るい声に励まされた。
病院は嫌いだ。いい思い出が全くない。
》 》
嘘が上手くなるといいことが1つ。
余計なことを詮索されない。これが何よりもありがたい。
話したくないことをずけずけ訊いてくるカウンセラーは、職を辞めるべきだと思う。
私は、誰にも言うことなどない。
ただ、この思いだけは記しておきたい。
《 《
「ただいまー。」
2日後の夕方に帰ると青年は、居なかった。
「あら、買い物かしら。」
作業場に入ると美しい稲穂の海が出迎えてくれた。
