「私の命を想ってくれてありがとう。」
「っ!!」
涙で濡れる瞳を向けられて胸が締め付けられる。
「先生・・・〝良く頑張りました〟。」
それは、救えない命に心を痛めながらも優しさをくれた人への恩返しだった。
「っ!!君がっ、言うのか・・・」
柔らかく優しく頭を撫でられて初めて患者の前で涙が零れた。
自分よりも大変な闘病を送る患者にけっして涙を見せないと誓っていたのに優しくも悲しい命に触れてしまった。
「痛くて、苦しくて薬が欲しい時にはちゃんと言います。だから、私にばかり構わなくていいよ先生。」
気遣わなければイケない命に気遣われてしまった。
》 》
この人生の中でいいことは、〝期待しない〟で物事に打ち込めるようになったこと。
過度な期待を持たないが故に打たれ強いイメージをつけることが出来てキャリアアップには、大いに役立ったものだ。
しかしこの能力の欠点は、〝本心〟が表に出ないこと。
〝空気を読める〟ことと〝考えを読める〟ことは、違うのだと言うこともよくよく学んだ。
しかし今更だ。私は、死に逝くのだ。
