「俺たちは幼馴染であって、姉弟じゃない」

息を吐いて整えようとする私に、暁の声が冷たく降り注ぐ。

「紗希の事、一度だって姉のように思ったことはないよ」
「あ、きら」
「弟はこんなことしないって言っただろ。ねぇ、紗希。俺を見てよ。小説家でもない、弟でもない、幼馴染でもない……」

暁の切なげな瞳にハッとする。

「ただの男として俺を見て」

そう言って家を出ていく暁の後を追うことも出来ずに、ただその場に座り込んでいた。
唇にまだ暁の熱が残っている。
『弟』は暁にとって地雷だってわかっていた。でも、私にとって暁はずっと弟のような存在だった。ずっと……。

……本当に? 本当に弟のような存在だった? 暁がこの家に来てからもずっと?
いや、違う。違うんだ。
弟だって思っていないと怖かった。暁が知らない男の人のように感じて怖かったのだ。