「小説家なんでしょう? 凄いじゃない」
「いやいや、あんなのどこまで本気なんだか知らないし。はたから見れば家に籠りきりのただのニートだって」
「ひどい言い草」
香苗は苦笑するが、あれをニートと言わずなんという。
朝のことを思い出し、ため息が出た。
今朝、物騒な発言をしていたのは、幼馴染で同居中の冴島暁。三歳年下の26歳。
自称、小説家だ。
というのも、私は暁の書いた本を読んだことがないし、ペンネームすら知らない。
だから、暁の本が売れているのか、そもそも出版しているのかすら知らない。
暮らし始めてすぐにペンネームや本のタイトルを聞いたところ、眉を潜めてから「教えない」と一言。
暁がしている仕事関係を訊ねても一向に教えてくれないのだ。
ジャンルは、たぶんミステリーかサスペンス。
それも、ああして時々物騒なことを聞かれるから推測しただけだった。



