「私、座るの向こうだから、また後で教室でね」
入学式の会場である体育館に移動して
下の名前で呼び合うようになった香苗ちゃんと別れる。
右のポケットにはハンカチとティッシュ、
左のポケットには昨日考えた新入生挨拶の紙が入ってる。
緊張するけど、大丈夫。
ただ、紙に書いてある文章を読むだけなんだから。
「編入生挨拶。編入生代表、村上美羽」
「はい!」
よし、返事は大きな声で頑張れた。
あとはマイクを通すからきっと大丈夫。
「日を重ねる毎に温かくなっている今日この頃・・・」
後ろには、去年の挨拶をした“山本翼”さんもいる。
もしかしたら、今朝受付にいた人かもしれない。
駄目だ、考えないようにすればするほど考えてしまう。
「編入生代表、村上美羽」
緊張は最後までとけないまま
全校生徒に向けて礼をして、ステージから降りる。
担任の先生も、昨日私と会って心配だったんだろうな。
今は少しだけほっとしたように見える。



