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「ただいまー」
玄関で靴を脱いで・・・あれ。
私は急いで靴を脱いで居間に向かう。
急ぐけど、足音は静かに。
うるさくすると怒られちゃうから。
「あ、おかえり、美羽」
お父さんだ。
いつもは19時過ぎに帰って来るのに
どうして今日はこんなに早いんだろう。
「明日から出張だから、今日は早目に帰って来たんだ。
最近は美羽とゆっくり話もできてなかったしね」
もう2回も“美羽”って呼ばれた。
ちゃんと目を見て会話してくれる。
お母さんにはしてもらえないことを
お父さんにはしてもらえる。
お父さんは私の心の拠り所。
「ごめんね。
金曜日の晩には帰って来られるから」
今度は小さな声で、家の中のどこかにいる
お母さんには聞こえないように言った。
お父さんは、お母さんの私に対する態度を知ってる。
何度か注意もしてくれたし
私に“離れて暮らしても良いんだよ”とも言ってくれた。
だけど、離れて暮らすのは避けたかった。
だって、お兄ちゃんに話しかけることも
できなくなるかもしれないんだもん。
「大丈夫だよ。心配しないで」
私はお父さんに精一杯の笑顔で言った。



