「あ、ごめんね、急に。
昨日の感じからして人見知りなんだろうなって思ったんだけど
まさか同じ駅とは思わなくて。
見つけたら話しかけなきゃって思って」
少し焦りながら説明してる先輩はまるで
まるで・・・お兄ちゃんみたい。
「いえ、大丈夫です。
でも、あの、何で名前・・・」
私の場合は先輩の名前がお兄ちゃんと一緒だから
勝手に関連付けて覚えてたけど
先輩の場合はそんなことはないはず。
「あー、名前ね。あの・・・
羽って字が入ってたから、かな」
少し恥ずかしそうに言った先輩は顔を背けてしまった。
“名前に羽なんて入れなきゃ良かった”
ぼんやりとお母さんの声が頭の中で再生される。
ずっと“美羽”って名前が嫌だった。
だけど、先輩は私の名前に“羽”が入っているって理由で
こうして話しかけてきてくれたんだ。
「ありがとうございます」
蚊の鳴くような声で伝えたお礼の言葉は
時間通りにやってきた電車の音で
先輩にはきっと届いていない。