「……ごめん」
軽くなった手首に彼の体温が残って、龍君は気まずそうに軽く笑った。
「隼人はお前の事、真剣に好きだよ。出会いがどうだったとしても。変な事聞いて悪かったな。隼人にヨロシク。じゃーな」

笑顔を張り付けて背を向ける龍君を追いかけることなんて出来ない。
何が言いたかったのかは全然わからなかったけど、龍君苦しそうだった……。

財布もないくせにたっぷり時間をかけて隼人さんは帰ってきた。
「アイスなかった」って素っ気なく言った彼は、テーブルの上の財布に気が付いたはず。

でもお互い何も言わなかった。そのまま何も聞かずにスマホを取り出して弄る隼人さん。そういえば私のスマホはどこにいったんだっけ?
鞄を漁るとすぐに目的のものは見つかった。でも電源切れてる。
そっか、充電し忘れてたんだ。

充電器をつないでボタンを押すと画面が明るくなって、電話マークの横に7の数字が目に入った。「隼人さん電話した?」尋ねると「してない」の返事。

タップに反応するのを待って着信履歴を開くと、並んだ和香の文字と間に一つだけ「山田 龍之介」

時間は龍君が来る前だ。やっぱり和香と龍君になにかあったんだ。もっと早く気が付けばよかったのに。どうしたんだろう。とりあえず和香に……。

発信ボタンを押すと間髪入れずに涙声が耳に入った。
「さくらちゃーん。ぐすっ……りゅう、ちゃんに……ばれちゃったの……。りゅうちゃん、ぐすっ、出てくれない。うぅ……ひっく」

和香が龍君にばれて困ることなんて一つしかない。
「今から行くから。家?」
「うん……ごめんっ……ひっ、く……」

財布とスマホだけ握って立ち上がったら、怪訝な顔した隼人さんに道を塞がれた。
そういえば隼人さんがいたこと忘れてた。

「あの、和香が、龍君にばれたって……。私、行ってくる。」
一人暮らしの和香の家は電車で2駅先。今からなら終電間に合うはず。

ため息をついて、隼人さんは「じゃあ送る」と自分の財布を拾い上げる。
「いいよ」なんて言ってもきっと聞かないから、私も軽く頷いた。

ばれたって、もちろん合コンのことだよね。水面に墨を落としたみたいに、私の胸にはモヤモヤが広がっていく。二人は別れるの? 考えてしまった自分に嫌気がさした。

友達面して和香の家に向かいながらこんなこと考えてる。私最低だ。