バイト先になんて連れてくる気はなかったのに「店はお前が決めろ」と言う上に、「お前、自分が入ったこともない店に俺を連れていくつもりか」、と続けられて私が知ってる場所はここしかなかった。
長距離バスの発着地に近いこのカフェは、朝早くから夜遅くまで営業していてセルフサービス。
幸い二階は店員がいないため、好奇心丸出しの同僚の視線から逃れることも出来る。
セルフサービスの割に美味しいうちのカフェのランチ。ナスのボロネーゼとモツァレラチーズのサラダに、コーヒーで870円。
当たり前みたいに二人分の支払いを済ませようとする水無月隼人を押し退けて夏目漱石をトレイに置く。
一瞬迷った同僚は、私の「別々だから」という言葉に小さく頷いて一人ずつの会計をレジに打ち込んだ。
「変なやつ」呟いた水無月隼人は怒ってるようにも面白がってるようにも見える。変な奴はそっちでしょ。
食後のコーヒーに口をつけてから、「あの、今日は何の御用ですか」と尋ねた。
けれど私の数回目になる質問は完全に無視されて、「龍之介たちと飯、来週の金曜日でいいよな」と勝手に決められる。
「そこまで付き合ってくれなくても、龍君には別れたって言っておくので大丈夫です」慌てて告げたけれど、私を真っ直ぐ見つめた水無月隼人は少し苛立った声を出した。
「……うるさい。龍之介と和香って子に昨日あったこと全部知られたいのか? お前は黙って俺の言うこと聞いてればいいんだよ」
龍君と和香の名前を出されたら私は黙るしかない。このまま恋人ごっこを続けたって良い事なんて一つもないのに、意味が分からない。それでも逆らえない雰囲気に言葉が出てこない。
無言を承諾と受け取って、機嫌を直したらしい水無月隼人は食器を手早くトレイに集めて立ち上がった。
「お前いつもそんな服着てんのか。俺と歩くのにそれじゃあな……行くぞ」
「えっ、あ、はい」もうなんだかわからないけど、ついて行けばいいんでしょ。そんな服って、さっきから失礼なやつ。
確かに私は量販店のTシャツやジーンズで過ごしてる事が多い。女の子らしい服装は自分には似合わないと思うし、苦手だ。
だからって人の事見下して……嫌いだ。龍君は誰にでも優しくて、女の子に意地悪な物言いなんて絶対にしないのに。
長距離バスの発着地に近いこのカフェは、朝早くから夜遅くまで営業していてセルフサービス。
幸い二階は店員がいないため、好奇心丸出しの同僚の視線から逃れることも出来る。
セルフサービスの割に美味しいうちのカフェのランチ。ナスのボロネーゼとモツァレラチーズのサラダに、コーヒーで870円。
当たり前みたいに二人分の支払いを済ませようとする水無月隼人を押し退けて夏目漱石をトレイに置く。
一瞬迷った同僚は、私の「別々だから」という言葉に小さく頷いて一人ずつの会計をレジに打ち込んだ。
「変なやつ」呟いた水無月隼人は怒ってるようにも面白がってるようにも見える。変な奴はそっちでしょ。
食後のコーヒーに口をつけてから、「あの、今日は何の御用ですか」と尋ねた。
けれど私の数回目になる質問は完全に無視されて、「龍之介たちと飯、来週の金曜日でいいよな」と勝手に決められる。
「そこまで付き合ってくれなくても、龍君には別れたって言っておくので大丈夫です」慌てて告げたけれど、私を真っ直ぐ見つめた水無月隼人は少し苛立った声を出した。
「……うるさい。龍之介と和香って子に昨日あったこと全部知られたいのか? お前は黙って俺の言うこと聞いてればいいんだよ」
龍君と和香の名前を出されたら私は黙るしかない。このまま恋人ごっこを続けたって良い事なんて一つもないのに、意味が分からない。それでも逆らえない雰囲気に言葉が出てこない。
無言を承諾と受け取って、機嫌を直したらしい水無月隼人は食器を手早くトレイに集めて立ち上がった。
「お前いつもそんな服着てんのか。俺と歩くのにそれじゃあな……行くぞ」
「えっ、あ、はい」もうなんだかわからないけど、ついて行けばいいんでしょ。そんな服って、さっきから失礼なやつ。
確かに私は量販店のTシャツやジーンズで過ごしてる事が多い。女の子らしい服装は自分には似合わないと思うし、苦手だ。
だからって人の事見下して……嫌いだ。龍君は誰にでも優しくて、女の子に意地悪な物言いなんて絶対にしないのに。

