「じゃ、運転気を付けて。対向車来なけりゃお前、道の真ん中走れ」
「そんな怖いこと、言わないでくださいよっ」
「なんでだよ、お前が道の端に寄っとるほうが怖いわっ! もう暗くなるから、ライト付けりゃいいじゃねーか」
「道の端が見えなくなるんですって。曲がる度になんか道が細くなってるように見えるし」
「はあ〜?」
源希は相当面倒くさそうな顔をしながらも、トラクターで鈴の運転する軽トラの前を走ってくれることになった。そうすれば、鈴が道を見やすいから。それに車体の幅のあるトラクターの通るのを見ながらならば、鈴のような初心者でも安心して走ることができる。
「お前、絶対メシおごれよ」
「源希先輩、後輩にたかるんすか?!」
「アホ、牽引料金を負けてやろうっつうのに」
「んーと、じゃあ来週の金曜か土曜? あダメだあたし来週も教習所だ」
「ふーん、じゃあ待っててやるよ」
「え?」
マジっすか? という声は聞かずに、源希はさっさと轟音を轟かせてトラクターを始動させた。鈴も慌てて追いかけるが、なにせトラクターの走行スピードは音の割にゆっくりだ。のんびり道の真ん中を走っても仕方のない状況は安心感があって、ヒヤッとすることは一度もなく、無事に帰り付くことができた。
「うん。しばらく運転はやめとこう!」
鈴は一人つぶやいて、内心ホッとしている自分に気付く。これで今週りんごに訪問車が届いても、「仮免で練習中に脱輪した」と言えばすぐに運転しろとは言われないだろう。
別れ際、煩いエンジンを切らずにチョイチョイと手招きする源希に近づいたら、頭をワシャワシャに撫でられながら連絡先のメモを渡された。心ならずもドキッ!としたのは、ご愛嬌——ということにしておこう。
