テンポラリーラブ物語

 食事が終わる頃に、ウエイトレスが柚子シャーベットを運んできた。

「これ、店からのサービスです」

 氷室が店の奥を覗き込み店長と目が合うと、手を上げていた。

「ここのオーナーと親しいんですか」

 なゆみは一匙のシャーベットを口にいれ、その冷たさに目を細めていた。

「ああ、まあな。昔仕事でこの店のインテリアやデザインを任されて設計したんだ」

「えっ、ここ氷室さんがデザインされたんですか」

 細めていた目が、急激に見開き、思わず辺りをまじまじと見渡した。

 格子がアクセントになって、和のスタイルをとりこみながら、今風のモダンな部分を出している。

 統一感のある色合いと空間。

 西洋人が考えるような日本のスタイルと言った雰囲気がした。

 なゆみは神でもみるような目で氷室を見ていた。

 氷室は大げさだと、鼻であしらう。

「作ったのは大工たちだ。俺は紙の上で頭を働かせただけだから、大したことはない」

「でもすごい。尊敬しちゃいます」

「それにもう昔の話だ。今は関係ない」

「えっ、どうして、こんなに才能あるのに、なんでそのお仕事辞めちゃったんですか」

「それもお前には関係ない。世の中夢だけで生きていけないってこともあるってことさ」

「夢だけで生きていけないかもしれないけど、夢を持たなければそれまた生きていけないと思う。夢があったら諦めちゃだめです」

「お前は調子に乗ると、すぐに生意気な口を利くよな」

「でも、これだけの氷室さんが作ったものを見せられたら、私、生意気な口ももっと生意気になります。氷室さん、一体何から逃げてるんですか?」