「氷室さんはご両親と一緒に住んでるんですか?」
「いや、賃貸マンションに一人で住んでいるよ、もう32歳なもんで」
「別に年は関係ないかと。何かと氷室さんって捻くれてますよね」
「最高の褒め言葉だ。ありがとう」
「だから…… いえ、もうやめときます。氷室さんには何を言っても敵いません」
「そうだな、俺は親の前でもこうなんだ。負けん気が強くてね、すぐに喧嘩しては自分が正しいんだって我を通している奴さ」
「でも氷室さんってもしかして寂しがりや?」
「どうしてだ?」
「だって、寂しがる人ほど、親に反抗するような気がする。充分な愛情を独り占めしたいために、感情をぶつけることでかまって欲しくなる心理ってことかな」
「ふーん、二十歳の小娘が結構心理学者みたいなこと言うんだな」
「当たってますか?」
「いや、はずれだ」
なゆみはガクッとうなだれた。
「だけど、なんか氷室さんの意外な面を見た感じがしました。もっと怖い人だと思ってたから、こうやって話ができるなんて思わなかったです」
「ふん、今回はお前を利用しただけだ。腹へってたから。背に腹は変えられぬっていうだろ」
「そうですね」
最初会ったときは確かに苦手な人間だと思った。
冷たく怖いとさえ感じていたが、まだ出会って間もないのに、他の従業員の知らない氷室の意外な面を誰よりもたくさん見たように思える。
初めて会った時の印象が徐々に変わっていっている。
それは氷室を知れば知るほど、自分の中で違った感情がいつも芽生えてくる。
氷室は本当は冷血漢でもなんでもない、そんなフリをしてるだけの本当はもっと繊細な人なのではないだろうか。
ホテルで感情を露わにした時、ほんの一瞬垣間見た、氷室の瞳の奥での深い傷跡。
それも含めて、氷室はとても壊れやすい一面を持っていると思えた。
それがなゆみにとって、気になり、もっと奥深くを見てみたいと思ってしまう。
まだ埋められない距離感の中で、時折近づいてくる氷室。
優しさを見せたと思えば、突き落とされる仕打ち。
そのギャップが激しい程、放っておけなくなってくる。
ジンジャを思う気持ちとはまた違う感情。
ジンジャを前にすると太陽を求めて真っ直ぐ走り続けていた感じだったが、氷室の場合はどこか月明かりに照らされて、その冷たい光に惑わされている感じ。
きついことを言われても、慣れが入ってきてそんなに気にならなくなってきた。
それが自分のために発せられた選ばれた言葉のようにも思えたからだった。
なぜこの人は、今私の前にいるのだろう──
なゆみは、お茶を飲む氷室をじっと見ていた。
「いや、賃貸マンションに一人で住んでいるよ、もう32歳なもんで」
「別に年は関係ないかと。何かと氷室さんって捻くれてますよね」
「最高の褒め言葉だ。ありがとう」
「だから…… いえ、もうやめときます。氷室さんには何を言っても敵いません」
「そうだな、俺は親の前でもこうなんだ。負けん気が強くてね、すぐに喧嘩しては自分が正しいんだって我を通している奴さ」
「でも氷室さんってもしかして寂しがりや?」
「どうしてだ?」
「だって、寂しがる人ほど、親に反抗するような気がする。充分な愛情を独り占めしたいために、感情をぶつけることでかまって欲しくなる心理ってことかな」
「ふーん、二十歳の小娘が結構心理学者みたいなこと言うんだな」
「当たってますか?」
「いや、はずれだ」
なゆみはガクッとうなだれた。
「だけど、なんか氷室さんの意外な面を見た感じがしました。もっと怖い人だと思ってたから、こうやって話ができるなんて思わなかったです」
「ふん、今回はお前を利用しただけだ。腹へってたから。背に腹は変えられぬっていうだろ」
「そうですね」
最初会ったときは確かに苦手な人間だと思った。
冷たく怖いとさえ感じていたが、まだ出会って間もないのに、他の従業員の知らない氷室の意外な面を誰よりもたくさん見たように思える。
初めて会った時の印象が徐々に変わっていっている。
それは氷室を知れば知るほど、自分の中で違った感情がいつも芽生えてくる。
氷室は本当は冷血漢でもなんでもない、そんなフリをしてるだけの本当はもっと繊細な人なのではないだろうか。
ホテルで感情を露わにした時、ほんの一瞬垣間見た、氷室の瞳の奥での深い傷跡。
それも含めて、氷室はとても壊れやすい一面を持っていると思えた。
それがなゆみにとって、気になり、もっと奥深くを見てみたいと思ってしまう。
まだ埋められない距離感の中で、時折近づいてくる氷室。
優しさを見せたと思えば、突き落とされる仕打ち。
そのギャップが激しい程、放っておけなくなってくる。
ジンジャを思う気持ちとはまた違う感情。
ジンジャを前にすると太陽を求めて真っ直ぐ走り続けていた感じだったが、氷室の場合はどこか月明かりに照らされて、その冷たい光に惑わされている感じ。
きついことを言われても、慣れが入ってきてそんなに気にならなくなってきた。
それが自分のために発せられた選ばれた言葉のようにも思えたからだった。
なぜこの人は、今私の前にいるのだろう──
なゆみは、お茶を飲む氷室をじっと見ていた。



