テンポラリーラブ物語

「氷室さん、弟がいるんですか?」

 弟と間違えられたので、なゆみは軽く聞いてみた。

「ああ、ちょっと年が離れた弟がいるんだ。弟ともここに来たことがあったからね。お前は兄弟がいるのか?」

「いえ、一人っ子です」

「そっか。そんな感じには見えなかった」

「それって、弟とかいるように見えて、しっかりしてるってことですか」

「いや、いつも兄弟げんかして負けてばかりの負け犬って感じ。弱い犬ほどよく吼えるっていうしな」

「なんですかその例え?」

 常に憎まれ口を挟まないとすまない氷室に、なゆみはまた乗せられてしまった。

 何か言い返そうと考えている時にお茶が運ばれてきた。

「ご注文お決まりですか?」

「ロースカツ定食二つで」

 ウエイトレスはテーブルを後にすると、すぐさま厨房に注文を通していた。

「私、まだメニュー見てなかったんですけど……」

 勝手に注文され、なゆみが不満げに言った。

「俺に任せろ。これが一番上手いから」

 氷室の俺様になゆみはなす術もなく、目の前の湯飲みを取り、熱いお茶をふーふーと冷ましながら口をつけていた。

 少し熱かったので、慌てていると、氷室は口元を綻ばせていた。

 その自然な笑みを見ると憎めなくて、なゆみもどこかほっこりとしてきた。