テンポラリーラブ物語

 なゆみが急いで本店に戻ると、すでにミナと紀子とその日来ていたアルバイトの女の子たちは着替えが終わり、シャッターをくぐって帰るところだった。

 なゆみは「お疲れ様です」と頭を下げた。

「サイトちゃん、ごめんね。氷室さんも先に帰れっていうから、待ってなくてごめんね」

 ミナが言った。

「いえいえ、そんな、気を遣わないで下さい。遅くなった私が悪いんです。それじゃまた明日」

「うん、じゃーね」

 なゆみは皆に手を振って、見送ってから半開きのシャッターを潜った。

 中に入って顔を上げたとき、デスクの前の椅子で腕と足を組んで座って待っていた氷室とすぐに目が合った。

「お疲れ」

「お疲れ様です。遅くなってすみません。すぐ着替えますので」

「いいよ、ゆっくりしてくれて。今日もこの後、英会話なんだろ」

「いえ、月曜日は休みなんです。今日はありません」

 氷室は休みと聞いて考え込んだ。

 なゆみは慌てて控え室に入り、帰り支度をするが、できるだけ早く着替えようとして、ズボンを穿くときバランスを崩して「うわぁ」と悲鳴を上げてよろけていた。

「おい、だから慌てるなっていってるだろ。服着替えるだけで、怪我するなよ」

「はい、すみません」

 ロッカーをバタンと閉める音がして、次にタイムカードに差し込んだときの音も響いた後、ドアが開いてなゆみが出てきた。

「すみません。お待たせしました」

 頭を深々と下げると、氷室は椅子から立ち上がった。

「それじゃ、飯でも食いにいこうか」

「はい。…… ん? えっ?」

 さりげなく言われて、深く考えずに返事してみたものの、自分の意思と噛み合わない。

「英会話学校休みなんだろ」

「はい、そうですけど、今なんて?」

「だから飯食いにいこうって」

「私とですか?」

「うん。土曜日の貸しもあるだろ」

「あっ、そうでした。はい。わかりました。いきましょう」

 あの時の仮があった。

 そういう事なら仕方がないと、氷室の提案に素直に従うが、それでも変なシチュエーションになゆみは戸惑っていた。