テンポラリーラブ物語

 ことあることに、何でも言葉を挟んで注意してくる。

 川野は恐ろしくネチネチしていた。

 これでは冷たい氷室の方がまだ放っておいてくれるだけ、ましだと思った。

 あのにやけた顔の裏には、しつこいネチネチさが隠れていたとは、なんだか気分が滅入ってくる。

 小さいおっさんなのに、存在は大きく鬱陶しい。

 笑みを常に浮かべたにやけた顔も、優しさじゃなく嫌味に見えてきた。

 川野が休憩を取って出かけた時、なゆみは千恵に耳打ちした。

「千恵ちゃんはずっと川野さんとここで働いてるけど、偉いね」

「えっ、そうかな。慣れてくるよ。サイトちゃんはまだ初めてだからびっくりだろうけど。実はさ、氷室さんと川野さんって仲が悪いんだよね。でも氷室さん専務の友達でしょ。だから川野さんは何も言えず我慢してるみたいだけどね。それでその分ここでネチネチとするわけ」

「そっかこの中でも色々とあるんだね」

「そうそう、巻き込まれないのが一番だから、なんかあってもあまり気にしない方がいいよ」

 にこやかに笑いながら会社のしがらみを教えてくれる千恵は、何事にも動じない落ち着きがあった。

 観音様のような慈悲深い微笑みに、なゆみは癒されていった。

 ほんわかとしていると、電話が鳴り、なゆみはすぐさま対応する。

「トレードチケットセンターです」

「本店の氷室です。お疲れ様です」

「あっ、どうもお疲れ様です」

 氷室とビジネスの会話とはいえ、声だけ聞くのは少しドッキリだった。

「どうだ、しっかりやってるか」

「は、はい。なんとか」

「そっか。それならいい。それだけだ」

「えっ、それだけのために電話ですか?」

「ああ、俺がいなければお前は羽を伸ばしそうだからな」

「そ、そんなことありません。川野さんにも思いっきり叱られてます」

「そっか、わかった。報告はまた後で聞く。じゃーな」

 電話が切れると、千恵がくすっと笑い出した。