テンポラリーラブ物語


 その日、隣のビルの支店でアルバイト一人休みが出てしまい、急遽本店から一人回してくれと依頼があった。

 色々な経験をさせるために、新人が出向くのは暗黙の了解だった。

 なゆみを送りださなければならない。

 本店を任されている氷室は、私情で動くことができずに、泣く泣くそうせざるを得なかった。

 なゆみが側に居ないのは正直寂しい。

 そんな気持ちを抱いてる中「はい、喜んで」となゆみは移動を明るく承諾すると、氷室と離れることが嬉しそうに聞こえた。

 まだまだ自分は苦手とされているのがひしひしと伝わってくるようで、氷室は複雑な気持ちになりながら、それでもどうすることもできないとなゆみへの思いをできる限り閉じ込める。

「いいか、川野主任に気をつけて、あっ、いや、その、言うことをよく聞いていつも通りに頑張ってきなさい」

 滅多に笑う事のない氷室が、餞にニコッと微笑んだ。

「はい!」

 その氷室の笑顔に元気が出ると共に、なゆみは少しだけドキッとしてしまった。