テンポラリーラブ物語

 一方でなゆみは、あまりにも静か過ぎるこの状況が却って落ち着かず、時々チラチラと様子をみている氷室がまだ怒ってるのではないだろうかと、不安になってきた。

 目は合うのに逸らし、話したそうなのに敢えて無視する。

 これは謝罪を求めているのではないだろうか。

 なゆみがなかった事にして、忘れようとしていることが腹立たしいのもしれない。

 あれだけ迷惑をかけておきながら、お金も使わせてお礼もしてないことが、今頃になって失礼に思えてきた。

 すでにタイミングを逃してしまい、今更自分から失態を口にするのは憚られる。

 せめて氷室から、お怒りの言葉でもいいから言ってほしかった。

 そうすれば素直に対応できるのに。

 なゆみもまた、チラチラと氷室の様子を見ていた。

 結局はお互い深読みしすぎ、余計ないらぬ気持ちまで取り込んで、重苦しくなっていた。


 あまりにもやりにくく、とうとうそれに耐えられずお互い同時に名前を読んでしまう。

「氷室さん」
「斉藤」

 もう少し待てばよかった。
 ああ、しまった。

「あっ、なんでしょう」
「ん? そっちこそなんだよ」

 一体何を言いたいのだろう。
 何を言うつもりだったんだ。

「氷室さんからどうぞ」
「斉藤から言えよ」

 そっちから言ってよ。
 だから早く言え。