テンポラリーラブ物語

 柳瀬は途切れることもなく、どんどん話続ける。

 それと比例して聞いているなゆみはどんどん衰弱していった。

 柳瀬は話し方は柔らかで優しかったが、決して終わらないセールストークで、宗教のことばかり話し出す。

 そこになゆみを誘い込もうと何度と説得を重ねた。

 なゆみは宗教など全く興味がなかったが、時々横から英語でジョンが色々と話をしてくる度に、相槌をうっていると、興味があるように思われていった。

 まるでそれは用意されていた策略のようで、なゆみはどんどんこの二人の思うままに言葉を引き出されていってしまう。

 いい加減に帰りたいと何度と意思表示しても、柳瀬は仏のような笑みを絶やさずに「もう二度と会えなくなるのは寂しいから、是非会員になってまた来て下さい」とそればかり言い続けた。

「だからそれは家に帰ってからゆっくり考えて結論を出します」と言葉をにごらせても、逃げるとはなっから思っているのか決して席を立たせないようにどんどん話を浴びせる。

 そして気がつけば窓の外はすっかり暗くなっていた。

 どれだけの時間をこの人たちと過ごしていたんだと、自分でもびっくりして、この異常な事態に危機感を感じてしまった。

 このまま行けば、もう二度と家に戻れないんじゃないかとも思えてしまう。

 それより何より、恐ろしく疲れた。

 神経が磨り減って、思考能力が働かない。

 結局、根負けしてしまい、なゆみは早く帰りたいがために会員になると申し出た。

「そうですか。それは嬉しいです。それじゃ入会金が2000円なんです」

 金を取るといわれて、ここでまた驚いてしまったが、意思表示をしたために引っ込められなくなり、そして何より早く帰りたい。

 なゆみは2000円をしぶしぶテーブルに置いた。

 とても高いケーキと紅茶代に思えた。

 それでも、ここでやっと開放され、腰を上げることができたことは喜ばしかった。

 この後、ジョンが駅まで送るとついてきた。

 英語を話すのは自分の勉強のためにもなるので、別に断る理由もなく、一緒に肩を並べて歩いた。

 別れ際にまた次の日曜日に会おうと約束をさせられて、やっと一人になれて家路に着いた。

 馬鹿正直について行ってしまったために、変なものに巻き込まれ、なゆみは悶々として悩んでしまった。

 弱っていた心の隙間に入りこんできた、やっかいな問題ごとは、不安でしかなかった。

 誰かに相談したくて、なゆみは思い切ってジンジャに電話をかけてみた。

 勇気を振り絞り、ダイアルをプッシュする指に力を込めた。