「なんだ、今まで慕っていただけに、自分のものだと思っていたものが、他の男と一緒にいたくらいでプライドが許さないのか。自分のことは棚に上げて、彼女がお前を相手にしなくなったら、独占欲が出てくるってところか。彼女はお前の所有物じゃないぞ」

「氷室さん、なんてことを。そんなんじゃないんです。彼はただ心配してくれてるだけなんですって。だって友達だから」

「友達? 笑わせるな。その友達が他の女と歩いているのを見て、やけくそになって酒を飲んで悪酔いしたのはどこのどなたでしたっけ。お前たち何を中途半端なことやってんだ。俺は巻き込まれるのはごめんだ。好きにやってくれ。俺、もう帰るわ。じゃーな」

 氷室は、背筋を伸ばしてスタスタと夜の街に消えていった。

「ひ、氷室さん」

 何もジンジャの前で言わなくてもいいものを、ここまではっきり暴露されると、なゆみにも都合が悪くなった。

「なんだよ、あいつ。噂どおりの失礼な奴だな」

 ジンジャが怒りを露にするも、なゆみはまともにジンジャの顔が見られなかった。

 ジンジャは気持ちが収まらず、呆れた眼差しをなゆみに向けた。

「タフクもふらふらして酒なんか飲んでる場合じゃないぞ。これから留学だろ。それじゃ向こうへ行ってもやっていけないぞ」

 このときのジンジャの言葉は苛立ち紛れのお説教のように聞こえ、なゆみはカチンときてしまう。

「そんなことジンジャに言われる筋合いはないよ」

 元はと言えば、煮え切らない態度を取ったジンジャが悪い。

 不満が突如湧き上がる。

 何をあんなに自棄になって泣いて、酒を飲んで一人で空回りしていたのだろう。

 なゆみは情けなくなり、振り切るように歩き出した。

「おい、待てよ。タフク、一体何を考えているんだ。いつものお前らしくないぞ」