テンポラリーラブ物語

 自分のことで精一杯のなゆみは、坂井の気持ちなど気づくことなどなかった。

 ジンジャがユカリと付き合ってる。

 頭の中がそれで一杯になり、ショックで落ち込んでいた。

 坂井がこの日、なゆみに失恋したのと同様に、なゆみもジンジャに失恋してしまった。

 それでも、ジンジャを思う気持ちはすぐには収まらない。

 辛いときこそ笑わないとと意地を持っていても、このときは口元が緩むと泣き出しそうだった。

 堪えに堪えて電車に揺られる。

 家に帰った時、自分の部屋の机の引き出しから封印していたキティのマスコットをまた取り出した。

「なんのために封印したんだろう。ねぇ、キティちゃん。やっぱり私は、無理ができない」

 キティを身に着けなくなった理由、それは子どもっぽいところを排除したいためだった。

 少しでも大人びて女っぽくなりたい。

 そんな気持ちを込めて子どもっぽい要素を捨てるために、キティのものを身に着けなくなっていた。

 だけど、キティのマスコットを持たなくても、なゆみの中身はなゆみのままだった。

 それなら無理をしなくてもいい。

 自然に好きなものは好きでいいじゃないか。

 そういう開き直りが出てくる。

 失恋しても、とことん好きな気持ちはもっててもいい。

 そう自分を慰めながら、キティを両手で握り締め、自分の部屋で泣きはらしてしまった。