都市の中心に建ち並ぶビルの地下一階に、この店は位置していた。

 ショッピングエリア、飲食エリア、ビジネスエリア、エステなどのサービスエリア等、多様なものが集まっている。

 氷室が働く店は、商品券やチケット等を買い取って、それを再び売るというような金券ショップだった。

 ほとんど紙切ればかりの商品だが、売る人、買う人ひっきりなしに寄ってくる。

 専務と呼ばれた男、谷口純貴の父親が、この商売を始めてそれが成功し、今では支店も何店と出すほどに成長した。

 氷室が偶然にこの店に立ち寄ったとき、谷口純貴に会い、近況報告の会話の中で失業したと言うと、簡単に誘われたのがきっかけで働くこととなった。

 氷室自身、本当はこんなところで働きたくなかった。

 いい大学を出て、いい就職先に入り、自分の中ではエリートと思っていたのに、運悪くリストラされて、プライドもズタズタでお金もなかった事でやけくそで受けてしまった。

 そんなこと谷口純貴には言えないが、表面上はありがたく受け取り、腹の底ではただのテンポラリー(一時的)ですぐに辞めてやると思っている。

 しかし、この商売意外と儲かっているようで、正社員としてそれなりのお給料を氷室に払っている。

 頭を働かせることもなく、ただ紙切れを売買し、楽にそこそこ纏まった金が得られることで、結局ずるずると1年も過ぎてしまった。

 氷室コトヤ、32歳。

 すでにもういい年を過ぎていた。