テンポラリーラブ物語

 あの日、氷室はなゆみからのメッセージの意味を受け取ると、すぐに幸江に電話して自分には思い人が居ることを正直に話した。

 幸江は以前から薄々感じていたために、取り乱すことなくそれを素直に受け止めた。

 氷室に好きな人が居るならば仕方のないことであり、そんな他の女を思っているような男など自分の方から断りたくなっていた。

 そこまでして氷室と結婚する意味がないと、幸江もプライドというものがあった。

 落ち着きを払い、自分の方が立場が上だということを見せ付けるためにも、氷室の断りにも動じずに威厳を持って接していた。

 氷室はその後で、幸江の両親に謝りに行き、全てのけじめをつけていた。

 自分の父親のお世話になった人達だから邪険にはできないでいた。

 父親に叱られるかと思ったが、意外とあっさりと「そっか、残念だった」としか返ってこず、まずは一安心だった。

 その後に金を返せと催促されたが、それについてはもう少し待ってくれとはぐらかす。

 そのお金があったから、氷室はこうしてアメリカに来ることができたのだった。

 帰ったらどやされるだろうが、なゆみと会うことと引き換えても怒られるくらいなんともなかった。

 純貴にも何もかも話し、仕事も一から出直すつもりだと伝え理解を得た。

 なゆみとの将来をしっかり考えたい。

 とにかくじっとしているよりはなゆみに直接会って話をしたい。

 いずれは結婚のことも視野にいれて、なゆみを自分のものにする決意も固く、それだけで葉書きに書かれた住所を頼りに海を越えて本当にやってきてしまった。

 自分でも無謀だと分かっていても、もう諦めたくはなかった。

 どんなときでも夢を持ち続けてそれに向かって掴み取りたいと、なゆみの葉書きで再び情熱が湧き起こった。

 氷室には常にそんな気持ちにさせてくれるなゆみが必要だった。

 年なんて関係ない。

 とにかく行動あるのみ。

 氷室は自分の心のままにここまでやってきてしまったのだった。