テンポラリーラブ物語


 日はまた昇っても、それはお構いなしに毎日が無常にやってきた。

 それならば、何をやっても同じ事が繰り返されて、氷室は希望など持てなくなっていった。

 氷室の心は大きな穴が開き、中身が抜けて、幸江とのことも不承不承に付き合っていた。

 断る理由も作れずに、ただ食事を一緒にするという形式だけのデートを繰り返していた。

 気乗りはしないのに、うやむやになればなるほど、断り辛くなっていく。

 引っ込みがつかないところまで来ていた。

 父親は、早くプロポーズしろと何度もせかし、婚約指輪を買うために援助してくれたお金は、氷室の口座にとっくに振り込まれていた。

 氷室は時折、ジュエリーショップのショーウインドーを眺め、ひときわ煌くダイヤモンドの輝きを空虚に見ていた。

 このダイヤモンドを幸江に送れば真意に触れず、全てはその光に騙されて、事が上手く運ぶ気がしていた。

 幸江との結婚で得られるものは、約束された地位だった。

 それを手にしてしまえば、あとは適当に結婚生活ができるのかもしれない。

 幸江が作るものを食べ、身の回りの世話もしてもらえる。

 そして性欲を満たすだけのセックスもできて、そのうち子供ができたならば、それはそれなりに賑やかとなっていく。

 自分は仕事さえしっかりとして収入を得れば、家庭の事は幸江がきっちりとやってくれそうな気がした。

 幸江は見かけは悪くないし、大人しいときている。

 自分の意のままに操れて、後ろからついてくるタイプであり、それは尚更、氷室には都合が良いと思える要素だった。

 欲しいものを手にして、それだけの妻が漏れなく付いてくるのなら上等というものだ。

 ジュエリーショップのダイヤモンドを見つめながら、結婚とはそういうもののような気がしていた。

 幸せを味わうという自分の感情が何一つ含まれていないことを、氷室はこの時見逃していた。

 氷室はレールを引いた道の上に乗ろうとしていた。

 朝が来る度に憂鬱な思いを抱いて起き上がるのにも、いい加減飽きてきてしまった。

 誰かが背中を押せば、氷室ははずみで幸江にプロポーズしそうなところまで来ていた。