テンポラリーラブ物語

「おっ、コトヤン。どうした? 休憩時間とっくに過ぎてるぞ」

「すまん。今日はもう早退させてもらう」

「何があったんだ」

「悠長に喋ってる暇はないんだ。上野原さんを出してくれ。早く」

 純貴は訳が分からずにミナを呼んだ。

「もしもし、お電話変わりました。上野原です」

「教えてくれ、斉藤の乗る飛行機はなんだ。あいつはまずどこへ行くんだ」

「えっ? えーと」

 ミナは咄嗟に質問されてすぐに思い出せなかった。

 氷室は焦る気持ちの中、体を震わせてミナの言葉を待っていた。

「あっ、確か、ユナイテッドのロス行きだったかと」

「わかった。ありがとう」

 氷室は電話をすぐに切り、ユナイテッド航空のカウンターめがけて一目散に走った。

 会えると期待が高まる中、カウンターに来てみれば目の前の光景に落胆してしまった。


 そこにはなゆみの姿どころか、ガラガラに空いて、乗客すらほとんどいない。

 ロスアンジェルス行きの飛行機の時間をチェックして氷室は唖然としてしまった。

 時間変更がされ、出発時間が3時20分となっている。

 その隣にはオンボードと表示され、すでに搭乗は始まっていた。

「そんな」

 チケットを持たないものは搭乗口など行けるはずがない。

 ましてや国際線。

 なす術もなく、氷室は空港内で迷子にでもなったように、途方に暮れた。

 先ほどの胸高鳴った興奮もすっかり凍りつき、谷底に容赦なく落とされ絶望していた。

 空いている椅子にふらふらと座り、首をうなだれて暫くそこで動かずじっとしていた。

 なぜもっと早く素直になれなかったのか、一言勇気を出して聞けばそれでよかったはずだった。

 それなのに簡単に諦めて酒に溺れることで方をつけようとした自分が腹立たしく、悔やんでも悔やみきれないでいた。

「くそっ」

 近づけなくとも、まだこの同じ場所になゆみがいると思うと、なかなか空港を去る気にはなれなかった。

 飛行機の出発時刻が過ぎてしまった頃、氷室はようやく立ち上がる。

 なゆみが飛行機に乗って飛び立ってしまった以上、もう無事に向こうに着いてくれることを願うしかなかった。

 氷室は揺ら揺らとふらつきながら歩き出し、陽炎のようにいつ消えてしまってもおかしくないくらいに自分の存在価値を否定する。

 あれだけの思いが一瞬のうちに消え去り、諦めるほかに道は残されず、重たい足を引きずるように、氷室は空港を後にした。