テンポラリーラブ物語


「氷室さん、タフクのことどう思ってます? タフクには、しっかりと見守って、寛容に支えてくれるような人じゃないといけないんです。そして時には厳しいことも遠慮なく言えて、正しい道に導いてくれるような人。そうじゃないとタフクはいつまでもふらふらしたままで、 危なっかしいこと一杯やってしまうんです。それができるのは俺じゃなかったってことなんです」

 ジンジャは氷室の目を見て、言葉の裏の意味を読み取れと訴える。

「伊勢君、用事を思い出したので失礼するよ」

 氷室は腕時計を覗き込み、一目散に走り出した。

 ジンジャは一仕事終えたように、息を漏らした。

 そしてぐっと背筋を伸ばして英会話学校へと足を向ける。

 まだ完全になゆみへの思いはふっきれた訳ではない。

 思い出が詰まった場所に一人残されれば、彼女のことを否が応でも思い出してしまう。

 それでもなゆみを好きでいた気持ちは、彼女のために応援してやりたいという気持ちに変わっていく。

 まるで風船の紐を自ら放してしまうことで、大空に飛ばしてどこまで高く上っていくのか見てみたいというような気持ちだった。

 それでもこのときはかっこつけてキザな役回りを演じ、そしてそんな自分に酔うことで乗り切ろうとしていた。

 明るく別れるのも楽しい恋の経験の一つになればいい。

 まだまだ沢山の恋がこれからできるとばかりに、ジンジャは眼鏡を抑えながら二枚目俳優を気取って微笑みを口元に浮かべていた。