なゆみが閉店間際に本店に寄ったとき、氷室は声を掛けるどころか、振り向くことすらできずじまいだった。
傷つくのを恐れ、これ以上の悲しみを抱えたくないと逃げる選択をしてしまった。
どうすることもできない思いを抱えたまま、嵐が過ぎ去るのをなす術もなく、ただ恐怖心だけ抱いてじっと耐えているような気持ちだった。
これで最後だとなゆみとの別れを突き付けられると、簡単にどん底に落ちてしまった。
それこそなゆみが言っていたテンポラリーラブだと、期間限定の暫しの仮の恋の終わりを、氷室は迎える準備をしていた。
それには一言も言葉を交わさず、終わりは早い方がいいに決まってる。
最後は飲んで飲んで飲みまくって、何もかも忘れる。
だから氷室は一人無言で飲み続けた。
深く海に沈みこみ、そしてもうそこから出てこないつもりで飲んでいた。
普段酒に溺れない氷室が、酒に溺れてしまったのは、また挫折して諦める道を選んでいたからだった。
まさかその酔ったことで、こうやってなゆみを抱いているとは皮肉なもんだった。
本人は果たしてどこまで覚えているのか、それは氷室が起きた時にしかわからない。
氷室は安心したかのようになゆみを抱えたまますっかり寝入ってしまった。
鼾が聞こえると、なゆみを抱いていた腕が緩んできた。
なゆみはそれが合図のように思えて、そっと氷室の胸から離れ、そして布団をかけてやった。
「氷室さん、それじゃ失礼します。今まで本当にありがとうございました」
氷室の寝顔を寂しげになゆみは見ていた。
氷室はなゆみが去っていく事も知らず、無防備に眠りこけている。
そんな姿を見つめながら、なゆみは言いたい気持ちも本人に告げられず、その代わりにじわっと涙がこみ上げた。
それを止めようとして最後に飛びっきりの笑顔を氷室に向けるが、無理に笑っても涙は頬を伝っていた。
これ以上側に居れば大泣きしてしまう。
なゆみは振り切るようにそこを立ち去り、最後に部屋の電気を消して、玄関に向かった。
そこに置いていたリュックを手に取ったとき、ふとキティのマスコットが目に入った。
一時は封印していたものだったが、再び自分らしさのシンボルのようにつけていたキティのマスコット。
何かある度に一緒に揺れて、自分と共に過ごしてきたものだった。
暫くキティを見つめて考える。
自分が氷室と別れても、このキティだけは氷室と過ごして欲しいと、リュックからキティのマスコットをはずし、なゆみはそれを下駄箱の上に置いていた鍵の隣に並べた。
そして静かにドアを開けて出て行く。
オートロックのドアはカチャリと音を立て閉まった。
なゆみはもう氷室の部屋へ戻れなくなった。
それと同時にさっきまで我慢していた涙が一度に溢れ出す。
それを拭いながら、早足でそこを去ってエレベーターに乗り込む。
マンションの外に出たとき、建物を振り返りもせず、全ての思いを断ち切るように大通りに向かって走っていった。
なゆみは自分の行くべき道だけを探すように、怖がることなく思った道を背筋を伸ばして進んでいく。
やがて駅が見えた時、涙も乾きこれでよかったとぐっとお腹に力を込めていた。
傷つくのを恐れ、これ以上の悲しみを抱えたくないと逃げる選択をしてしまった。
どうすることもできない思いを抱えたまま、嵐が過ぎ去るのをなす術もなく、ただ恐怖心だけ抱いてじっと耐えているような気持ちだった。
これで最後だとなゆみとの別れを突き付けられると、簡単にどん底に落ちてしまった。
それこそなゆみが言っていたテンポラリーラブだと、期間限定の暫しの仮の恋の終わりを、氷室は迎える準備をしていた。
それには一言も言葉を交わさず、終わりは早い方がいいに決まってる。
最後は飲んで飲んで飲みまくって、何もかも忘れる。
だから氷室は一人無言で飲み続けた。
深く海に沈みこみ、そしてもうそこから出てこないつもりで飲んでいた。
普段酒に溺れない氷室が、酒に溺れてしまったのは、また挫折して諦める道を選んでいたからだった。
まさかその酔ったことで、こうやってなゆみを抱いているとは皮肉なもんだった。
本人は果たしてどこまで覚えているのか、それは氷室が起きた時にしかわからない。
氷室は安心したかのようになゆみを抱えたまますっかり寝入ってしまった。
鼾が聞こえると、なゆみを抱いていた腕が緩んできた。
なゆみはそれが合図のように思えて、そっと氷室の胸から離れ、そして布団をかけてやった。
「氷室さん、それじゃ失礼します。今まで本当にありがとうございました」
氷室の寝顔を寂しげになゆみは見ていた。
氷室はなゆみが去っていく事も知らず、無防備に眠りこけている。
そんな姿を見つめながら、なゆみは言いたい気持ちも本人に告げられず、その代わりにじわっと涙がこみ上げた。
それを止めようとして最後に飛びっきりの笑顔を氷室に向けるが、無理に笑っても涙は頬を伝っていた。
これ以上側に居れば大泣きしてしまう。
なゆみは振り切るようにそこを立ち去り、最後に部屋の電気を消して、玄関に向かった。
そこに置いていたリュックを手に取ったとき、ふとキティのマスコットが目に入った。
一時は封印していたものだったが、再び自分らしさのシンボルのようにつけていたキティのマスコット。
何かある度に一緒に揺れて、自分と共に過ごしてきたものだった。
暫くキティを見つめて考える。
自分が氷室と別れても、このキティだけは氷室と過ごして欲しいと、リュックからキティのマスコットをはずし、なゆみはそれを下駄箱の上に置いていた鍵の隣に並べた。
そして静かにドアを開けて出て行く。
オートロックのドアはカチャリと音を立て閉まった。
なゆみはもう氷室の部屋へ戻れなくなった。
それと同時にさっきまで我慢していた涙が一度に溢れ出す。
それを拭いながら、早足でそこを去ってエレベーターに乗り込む。
マンションの外に出たとき、建物を振り返りもせず、全ての思いを断ち切るように大通りに向かって走っていった。
なゆみは自分の行くべき道だけを探すように、怖がることなく思った道を背筋を伸ばして進んでいく。
やがて駅が見えた時、涙も乾きこれでよかったとぐっとお腹に力を込めていた。



