テンポラリーラブ物語


「ひ、氷室さん、ちょっ、ちょっと」

 氷室は抱き枕を抱くようになゆみを包み込む。

 力強く抱かれると、じたばたしていたなゆみの力は抜けてしまい、されるがままに身を委ねてしまった。

 氷室の素肌に自ら体を摺り寄せ、一緒にベッドに寝転がった。

「今だけ、今だけだから」

 そういい聞かして、そっと目を閉じた。

 しんと静まり返る部屋の中で、氷室の胸の鼓動が聞こえてくる。

 暫くその音に耳を澄ませ、氷室のことだけを考える。

 厚くて温かいその胸になゆみは抱かれながら、氷室と過ごした日々を一つ一つ思い出していた。

 酔いつぶれていることをいいことに、なゆみは大胆にもそっと氷室の胸にキスをしてみた。

 そこにはこれまでのお礼と自分の本当の気持ちを含ませて、愛しいものに唇で触れることが最上級の行為とでも言うかのように思いを込めていた。

 お別れを口にしてさようならと思っていただけに、最後で氷室に抱きしめられてなゆみは満足だった。

 いつしか部屋は涼しくなり、氷室の熱が次第に心地よくなってくる。

 いつまでもいつまでもずっとこうしていたいとなゆみは思ってしまった。

 氷室もまた同じような気持ちでいたのか、うわごとのように呟く。

「斉藤、行……くな。頼むから、側に居て……くれ」

 どこまで本気なのか、なゆみには氷室のうわごとの真意は分からなかったが、それでも充分満足だった。