「さあ、帰るぞ」
「あっ、はい」
口数少なく、顔を合わせようとしない氷室の態度は、よそよそし過ぎて、なゆみのことを過去の人扱いにしているようだった。
なゆみは少し悲しくなり、思わず後ろから氷室のあの背中に抱きつきたくなる衝動に駆られてしまった。
そんなこともできるわけもなく氷室の後をなゆみは黙ってついていく。
店を出ると、氷室はシャッターを閉め鍵を掛けた。
なゆみはその大きな広い背中を、泣きたくなるような気持ちで見ていた。
「氷室さん、今まで本当にありがとうございました。氷室さんには本当に感謝してます」
「いいよ。こっちこそ楽しかったよ。お前みたいな奴はそう滅多に出会うこともないもんな」
氷室の本心だった。
(恋するほどに夢中になれたくらいだ。そうそう現れるもんじゃない)
「氷室さんだって、私が滅多に出会うような方じゃないです。氷室さんのことずっと忘れません」
「そっか」
氷室は光栄とばかりに笑みを口元に浮かべたが、目はかすかな悲しみを帯びていた。
そしてなゆみは右手を出した。
氷室は「ん?」と思っていると、なゆみは催促する。
「握手ですよ、握手。最後にお願いします」
「ああ、わかったよ」
氷室はなゆみの手をぎゅっと握った。
その手の感触は過去の色んなことを思い出させた。
なゆみも氷室の大きな手を最後の記念にしっかり握っていた。
この手が大好きだからどうしても触れたかった。
「それじゃここで失礼します」
「どこか行くのか?」
なゆみは特に答えることもなく、誤魔化すように笑っていた。
「そっか、伊勢君がいつもの場所に来てるんだな」
なゆみはにっこりと微笑み、踵を返して去っていった。
氷室には引きとめることもできなかった。
「あっ、はい」
口数少なく、顔を合わせようとしない氷室の態度は、よそよそし過ぎて、なゆみのことを過去の人扱いにしているようだった。
なゆみは少し悲しくなり、思わず後ろから氷室のあの背中に抱きつきたくなる衝動に駆られてしまった。
そんなこともできるわけもなく氷室の後をなゆみは黙ってついていく。
店を出ると、氷室はシャッターを閉め鍵を掛けた。
なゆみはその大きな広い背中を、泣きたくなるような気持ちで見ていた。
「氷室さん、今まで本当にありがとうございました。氷室さんには本当に感謝してます」
「いいよ。こっちこそ楽しかったよ。お前みたいな奴はそう滅多に出会うこともないもんな」
氷室の本心だった。
(恋するほどに夢中になれたくらいだ。そうそう現れるもんじゃない)
「氷室さんだって、私が滅多に出会うような方じゃないです。氷室さんのことずっと忘れません」
「そっか」
氷室は光栄とばかりに笑みを口元に浮かべたが、目はかすかな悲しみを帯びていた。
そしてなゆみは右手を出した。
氷室は「ん?」と思っていると、なゆみは催促する。
「握手ですよ、握手。最後にお願いします」
「ああ、わかったよ」
氷室はなゆみの手をぎゅっと握った。
その手の感触は過去の色んなことを思い出させた。
なゆみも氷室の大きな手を最後の記念にしっかり握っていた。
この手が大好きだからどうしても触れたかった。
「それじゃここで失礼します」
「どこか行くのか?」
なゆみは特に答えることもなく、誤魔化すように笑っていた。
「そっか、伊勢君がいつもの場所に来てるんだな」
なゆみはにっこりと微笑み、踵を返して去っていった。
氷室には引きとめることもできなかった。



