テンポラリーラブ物語

「げー、やっちゃった。もう恥ずかしい」

 ずべっと勢いよく転んで、周りの注目を存分に浴びた。

 たまたまショートパンツだったのが災いして、しっかりと膝小僧をすりむいて血が滲んでいた。

 むくっと立ち上がり、周りの人の反応をついでにちらりと恥かしげに見て、逃げるようにそそくさと去っていく。

 少し足がヒリヒリと痛かった。

 「ここでまたもう一回こけたらびっくりだな」と思って走ってたら、ほんとに躓いて一瞬ヒヤッとしたが、なんとか持ちこたえてよろけていた。

 どこまでも抜けているとなゆみが情けない思いを抱いていた時、背中に背負っていたリュックについていたキティもよろけるように、後ろで揺れていた。

 本店の端のシャッターが少し空いたところから光が漏れている。

 そこを潜れば、純貴と氷室が談笑をしている姿があった。

「お疲れ様です。遅くなってすみません」

「おっ、斉藤さん。お疲れ様。今までありがとうね。ほんと寂しくなるな。なあコトヤン」

「まあな」

 氷室にはそれが精一杯の言葉だった。

 心の中では寂しさで一杯なのに正直に感情を表せず、不自然にならないように短く受け答えしていた。

 なゆみは純貴にお礼を言って制服を返した。

 その時、氷室がなゆみの足を見てびっくりしていた。

「おい、お前、こけたのか。血が出てるぞ」

「はい、ちょっと最後にやってしまいました。かすり傷です」

 なゆみは恥ずかしさをごまかすために笑っていた。

 だが氷室は笑えなかった。

 早く来ようとして無理して走ってきた姿が目に浮かぶ。

 最後まで一生懸命なその姿勢は、初めて見たときから変わっていない。

 氷室は感情が高ぶってぐっと体に力が入った。