テンポラリーラブ物語


 最後の日は平日のために、なゆみの送別会はその週の土曜日にずらされた。

 気持ちだけでいいと何度も断ったのに、そうはいかない最後だからと、川野だけでなく純貴にも是非と勧められた。

 なゆみは有難く受け入れた。

 出勤最後の日は、特に変わりなく普段と同じ様に終えた。

 ただ気持ちだけが極まっていた。

 シャッターが閉まった後、川野が「お疲れさん」とにやけた顔を一層緩ませて、へへへと笑いながら言った。

 千恵も一つため息をついて「終わっちゃったね」と寂しそうに呟く。

「本当に色々とお世話になりました」

 なゆみは深々と頭を下げて挨拶した。

 たった四ヶ月の出来事なのに、もう何年も一緒だったような気分だった。

 終わりよければ全てよし。

 とても楽しい日々だったと、終わってからじわじわ溢れてくる。

 本当は辛いことも嫌なことも一杯あったのに、それすら忘れてしまえるほど、清々しい。

 勢いよくタイムカードをレコーダーに入れ込む。

 カチッという音ですら、胸に響いて、嗚呼という声が小さく漏れていた。

 服を着替え、今度は脱いだ制服を手に取った。

 氷室に似合ってないとストレートに言われた制服も、もう二度と着られないと思えばなんだか愛着が湧いてくる。

「サイトちゃん、そしたら土曜日にまたね」

「その日が斉藤との本当の別れになるんだな」

 千恵と川野がしみじみと言い出す。

「でもまた一年後にアメリカから戻ってきたらここへ寄ります。そのときまでここに居て下さいよ」

 二人は笑っていた。

 千恵と川野に別れの挨拶をして、なゆみは制服を持って本店に急いだ。

 専務である純貴に、仕事が終わったら挨拶をしたいと予め知らせていたので、待っていてくれているはずだった。

 だからこそ早く行かなければならない。

 しかし慌てすぎて、なゆみはしっかりと、その途中でこけてしまった。