テンポラリーラブ物語

「タフクはほんとに嘘がつけない奴だな。なんでも顔に表れる。まあそこがかわいいんだけどな」

「ジンジャ……」

「安心しろ、ここに来たのは偶然だよ。ここがこんな風になってるって俺も知らなかったよ」

 ジンジャからストレートに自分の思ったことの回答をされると、余計に気恥ずかしくなってうつむいてしまった。

「ほら、行くぞ」

 手を引っ張られ、歩き出したのもつかの間、今度はジンジャが急に立ち止まった。

 前方をじっと見て、緊張している。

「どうしたの、ジンジャ?」

 なゆみも前方を見た途端、ドキッとして狼狽えた。

 氷室と幸江が向こうから歩いて来ていたからだった。

 ジンジャを握る手に力が入って、なゆみは怯えるようにしがみついてしまう。

 その力の入れ具合が異常に強かったので、ジンジャは違和感を感じてしまった。

 なゆみを見れば、不自然にぎこちない。

 それに気を取られている間に、近づいて来た氷室が話しかけてきた。

「よぉ、お二人さんじゃないか。偶然だな」

「氷室さん、ご無沙汰しております」

 ジンジャが礼儀正しく答えた。

 なゆみはその隣でぎこちなく頭を下げていた。

「まさかこんなところで君達に会うとはな。一体ここで何してるんだ」

「別に何も、ただ歩いてるだけです。氷室さんこそ何をなさってるんですか」

 ジンジャは相変わらず睨んでいた。

「いや、この先にお洒落な店があるので、今からそこへいくところさ。近道と思ったけど、この辺はいつの間にか怪しげな通りになっていたよ」

 辺りを見回し、参ったとばかりに手櫛を入れるように髪を一撫でしていた。

 その時、ちらりとなゆみを一瞥していた。

「コトヤさん、邪魔をするのは失礼ですわ。行きましょう」

「そうだな。それじゃお二人さん失礼するよ」

 氷室と幸江は去っていく。

 どこからみても、お似合いで、大人なカップルだった。

 かつてはなゆみが氷室の隣を歩いていたが、それが恥ずかしく思えるくらい、幸江は氷室に相応しく釣り合いが取れていた。

 なゆみにだけ見せていた、あの優しさは、今度は幸江に向けられる。

 それが酷く心をもやもやとさせた。

 氷室は手の届かない場所に存在し、なゆみとは一切の関係がなくなった。

 頭では分かっていたが、実際に氷室を見てしまうと、何かがなゆみの中で崩れていってしまった。

 どうしようもなく、耐えられずに、自棄を起こしてしまう。