テンポラリーラブ物語

 氷室が幸江と付き合いだし、そしてなゆみはジンジャだけを見つめる。

 なゆみもジンジャ一筋に関係は順調に進んでいく。

 ジンジャはずっと我慢してた気持ちを解放するように、なゆみに積極的に気持ちをぶつける。

 それはどんどん二人の距離を縮めていったが、どっちかというとジンジャがどんどん入り込もうとしているようにも取れた。

 手を繋げばジンジャはなゆみを側に置くように力強く引っ張る。

 二人っきりになればキスを求め、「好きだ」と甘い言葉も平気で耳元で囁くようにもなった。

 なゆみは慣れてないために、ジンジャの大胆な行動に時々ついていけなくなりそうだったが、必死にジンジャに合わせようとする姿勢が却ってジンジャの思う壷となり、益々かわいいとジンジャのなゆみを抱擁する手に力が入った。

 なゆみは恥ずかしげに照れては、ジンジャのされるがままになっていた。

 ずっと憧れていた人に好かれているんだと思うと、なゆみ自身どこか満足感を得たような気持ちが芽生えてくる。

 こんな調子で、氷室もなゆみもお互いそれぞれの道を歩み始め、会う機会も全くなく、7月はあっという間に過ぎていった。

 そして8月もお盆を過ぎた頃になり、なゆみが働く日数も残り少なくなっていた。

 9月はもうすぐというときだったが、暑さだけはまだまだ続いていた。

「サイトちゃん、来月はとうとうアメリカだね」

 千恵がしみじみと言った。

「斉藤、準備はできてるのか」

 川野がにやけながら聞いてくる。

「はい、全ては整ってます。あとは出発日を待つだけです」

「そっか、是非その前に斉藤の送別会しなくちゃな」

 川野がそれを言い出したのにはなゆみは驚いた。

 セクハラ、ネチネチと良い思いはなかったが、それなりに川野はなゆみをかわいがっていた。

 ただ方法が厭らしかっただけで、結局はこの気持ち悪いおっさんも最後の最後でなゆみは憎めないと思った。

 給湯室でナイフを振りかざして襲ってきた、川野によく似た変質者よりは、実行に移さないだけよほどましだった。

 そんな奴と比べられていることは本人には知る由もないだろうが、なゆみは川野の気遣いに素直に嬉しいと笑顔で答えていた。