テンポラリーラブ物語

「もしもし、氷室と申しますが……」

「えっ、コトヤさん?」

 幸江の声が聞こえた。

 なゆみへの気持ちを絶つ瞬間だった。

「昨日はお会いできてよかったです」

 感情など備わっていない無難な挨拶をする。

 全ては口先だけのやりとり。

 しかしそれですら氷室は必死だった。

「この先お互いのことを知るためにも、俺とお付き合い願えませんか?」

 幸江は驚いていたのか、少し間を置いて「はい、宜しくお願いします」と遠慮がちに答えていた。

 間があったとき、そのまま断る理由を考えていてくれたらいいと願っていたが、承諾の返事が聞こえると、益々後に引けなくなったと無性に可笑しく思えてしまった。

 ここまで自分を追い込むことが罰ゲームとでもいうくらい、氷室は好んで自分を痛めつける。

 その後電話を切ると、持っていた携帯電話を放り投げていた。

 新たな幕開けに、氷室は思わず鼻で笑った。