テンポラリーラブ物語

 結局は割り勘ということになり、なゆみはいつになったら借りを返せるのか、店を出た後、しつこく氷室に付きまとった。

 繁華街の中、道行く人の通行の邪魔になるくらい、絡むように氷室の前に立ちふさがった。

 そのまま、氷室を見ながら、後ろ向きに歩いていると、でこぼこしたところで足をすくわれてぐねってしまった。

 氷室は咄嗟になゆみの腰に手を回し、体を抱きこむように支える。

「お前はしつこいってんだ。そのうち怪我するぞ」

 氷室はなゆみを抱き寄せた状態で、睨みを利かした。

 それは子供にお仕置きするように「めっ」と睨んでいるつもりだったが、知らない人から見ると恋人を抱擁しているように見えたかもしれない。

 すぐに手は離されたので、なゆみは、冗談のように受け取り、自分自身もふざけて対応していた。

 しかし第三者の目からみると誤解するには充分な戯れだった。

「キティ」

 突然聞こえてきた自分の英会話学校で呼ばれているニックネーム。

 なゆみは条件反射で振り返る。

「あっ、坂井さん」

「何してるんだこんなところで」

「えっ、その、ご飯食べて今から帰るところです。坂井さんすごく久しぶり。元気そうでよかった」

「何が元気そうでよかっただよ。こんなところ伊勢に見られたらどうするんだ。あいつ悲しむぞ」

「えっ、ちょっと待って、誤解です。この人は仕事でお世話になっている人なの。今日は色々あったからつい」

 なゆみは意気消沈してうつむくと、氷室は黙ってられなくなった。

「君はもしかして伊勢君の友達かい?」

 坂井は氷室に黙って視線を向けた。

「これは完全な誤解だ。斉藤と俺は何も関係ない。全くの仕事上の上司と部下だ。だが、言いたければいってくれてもいい。別にやましいことは何もないし、伊勢君が何を思うと俺には関係ない」

「氷室さん……」

 強気の氷室の発言になゆみはヒヤッとしてしまう。

 また悪い癖が出たように、氷室は虚勢を張っている。

 ジンジャが絡むと、氷室はムキになってしまう。

 それを見ると現実に引き戻されたように、なゆみも我に返った。

 その時、坂井がなゆみを見つめた。

「キティ、あのな、俺、お前のこと好きだったんだ。伊勢よりも先に仲良くなったのに、キティは後から出会った伊勢を好きになってしまった。伊勢もお前のこと好きになってたのは俺気がついていたんだ。でも俺、伊勢に自分がキティのこと好きだって先に教えちまった。伊勢のことだからきっと遠慮するって分かってたんだ。 だから伊勢は俺に気を遣ってずっとキティに気持ちを伝えられなくて我慢してたんだ。そのことだけ忘れないでやってくれ」

 突然の真実に、なゆみは狼狽えた。