テンポラリーラブ物語


 トンカツの店に入れば、店のオーナーが嬉しそうに声を掛けてきた。

「おっ、いつしかの少年のようなお姉さん。またいらっしゃい」

「おい、まだ言うか」

 氷室がキッと睨みを利かした目つきを返した。

「いやいや、これはかたじけなかったでござる。しかし、女にしておくのはもったいないくらい、美少年になれる顔立ちだ」

「あの、それって褒め言葉なんでしょうか?」

 なゆみはオーナーの例えがよくわからない。

「この人はちょっと変わってるんだ。感性が人と違うというのか拘りが強いというのか、この店のデザインを決めるときも大変だったんだ。何度も口を挟まれてやり直しだった」

「だから、氷室さんにしか頼めなかったんですよ。氷室さんは妥協することなく私の意見を取り入れて、何度もやり直しをしてくれた。感謝してますよ。 お陰でこの店も繁盛ですから」

「確かに俺もやり甲斐があった。だけど上司が上から圧力かけて、あの時は大変だったんだぞ。予算のこともあったから、いくらなんでも注文が細かすぎるって。会社がもう少しで断るところだったんだぞ。それを俺が必死に抵抗してギリギリの予算で進めたんだから」

「ほんとに氷室さんはいい仕事をしてくれた。大儀であった」

「あんた一体どこのお殿様だ」

 オーナーはアハハハと笑って厨房に入っていった。

 なゆみは氷室の服を引っ張って囁いた。

「あの人きっと他の星からきた王様なんですよ」

「そうかもな」

 二人はテーブルに向かい合わせになって座った。

 ウエイトレスが運んできたお茶を手にして、ほっと一息ついていた。

「少しは落ち着いたか」

 氷室が尋ねる。

「はい。もう大丈夫です。ここに来たらすごく元気がでました」

「無理するなよ」

 言葉少なかったが、氷室の声がいつもより優しくて、なゆみは心開いて安心しきっていた。