「警察に連絡した方がいいな。これは歴とした傷害罪だ」
「もういいです。無事でしたし、犯人も逃げてしまいましたし、警察が来てもすでに手遅れです。それに、警察が来たら、帰れなくなりそうですし」
「しかしだな、これは犯罪だぞ」
それでもなゆみは、警察に係わるのを嫌がった。
仕方がないので氷室はビルの管理責任者に電話を掛けて、変質者が出たことを報告しておいた。
そんなことくらいしかできない事を氷室は悔やんでいた。
「すまないな、俺、犯人とすれ違ったのに捕まえることできなかった」
「ううん、大丈夫です。私思いっきり蹴り入れましたから」
「えっ?」
「私、許せなかったんです。こんなところで変質者に襲われて怪我して留学できなくなったらどうしようって思ったら、急に怒りが爆発して、戦いました。私がものすごい形相で男の両手首を掴んだので、男は少し怯んで、その時ついでに腹部を足蹴りしちゃいました。ついでに噛んでやろうかと思ったんですけど、ちょうどその時氷室さんの声が聞こえたから、あの男慌てて逃げていきました」
なゆみは淡々と語っていた。
「お前…… なんと無茶な」
「なんとなくあの人、川野さんに見えちゃって、そしたら、今までの鬱憤を晴らしたくなって、遠慮なく蹴れました」
こんなときにまで冗談を言おうとするなゆみの健気なさが、氷室の感情を爆発させた。
氷室はなゆみをなりふり構わず思いっきり抱きしめた。
「バカヤロー! だから無理をするなって言ってるだろ。お前はどうしてそんなに無茶をするんだ。もし、取り返しのつかないことになってたらどうするんだ。 かすり傷ですんだからよかったけど、お前にもし何かあったら、何かあったら……」
思わず本音が漏れていた。
それに当てられてなゆみもたがが外れて、泣き出してしまった。
「氷室さん、氷室さーん、あーん、ほんとは怖かったよ」
なゆみは氷室に抱きしめられながらおんおんと素直に泣いた。
ずっと突っ張っていた頑張りが、このときふにゃっと折れ曲がって、誰かにすがり付いて甘えたくてどうしようもなかった。
氷室の胸はとても厚くがっしりと大きくて、その胸で思いっきり泣けるのがとても心地よかった。
氷室も力強くそれを受け止めるように両腕にしっかりとなゆみを抱きかかえている。
なゆみは安心感を体全体で感じていた。
その時なゆみのお腹の虫が「キュルルルル」と鳴ってしまった。
「あっ、お腹空いた」
泣き声交じりに小さく笑いも添えられて呟く。
氷室もふっと息が漏れた笑いをしていた。
「どんなときもやっぱりお前らしい。ほら、早く服着替えて来い。飯食いに行こう」
「はい」
なゆみは素直に言うことを聞いた。
控え室に入り、ロッカーを開ける。
扉の部分に付いた鏡を見ながら、涙を拭った。
すっきりした自分が映っていた。
「何か食べたいものあるか」
控え室の向こう側で氷室の声が聞こえる。
「トンカツ」
「またあそこに行きたいのか」
「はい」
氷室がデザインしたものをもう一度見てみたかった。
氷室と一緒に。
そこが自分にも特別な場所に思えてならなかった。
「もういいです。無事でしたし、犯人も逃げてしまいましたし、警察が来てもすでに手遅れです。それに、警察が来たら、帰れなくなりそうですし」
「しかしだな、これは犯罪だぞ」
それでもなゆみは、警察に係わるのを嫌がった。
仕方がないので氷室はビルの管理責任者に電話を掛けて、変質者が出たことを報告しておいた。
そんなことくらいしかできない事を氷室は悔やんでいた。
「すまないな、俺、犯人とすれ違ったのに捕まえることできなかった」
「ううん、大丈夫です。私思いっきり蹴り入れましたから」
「えっ?」
「私、許せなかったんです。こんなところで変質者に襲われて怪我して留学できなくなったらどうしようって思ったら、急に怒りが爆発して、戦いました。私がものすごい形相で男の両手首を掴んだので、男は少し怯んで、その時ついでに腹部を足蹴りしちゃいました。ついでに噛んでやろうかと思ったんですけど、ちょうどその時氷室さんの声が聞こえたから、あの男慌てて逃げていきました」
なゆみは淡々と語っていた。
「お前…… なんと無茶な」
「なんとなくあの人、川野さんに見えちゃって、そしたら、今までの鬱憤を晴らしたくなって、遠慮なく蹴れました」
こんなときにまで冗談を言おうとするなゆみの健気なさが、氷室の感情を爆発させた。
氷室はなゆみをなりふり構わず思いっきり抱きしめた。
「バカヤロー! だから無理をするなって言ってるだろ。お前はどうしてそんなに無茶をするんだ。もし、取り返しのつかないことになってたらどうするんだ。 かすり傷ですんだからよかったけど、お前にもし何かあったら、何かあったら……」
思わず本音が漏れていた。
それに当てられてなゆみもたがが外れて、泣き出してしまった。
「氷室さん、氷室さーん、あーん、ほんとは怖かったよ」
なゆみは氷室に抱きしめられながらおんおんと素直に泣いた。
ずっと突っ張っていた頑張りが、このときふにゃっと折れ曲がって、誰かにすがり付いて甘えたくてどうしようもなかった。
氷室の胸はとても厚くがっしりと大きくて、その胸で思いっきり泣けるのがとても心地よかった。
氷室も力強くそれを受け止めるように両腕にしっかりとなゆみを抱きかかえている。
なゆみは安心感を体全体で感じていた。
その時なゆみのお腹の虫が「キュルルルル」と鳴ってしまった。
「あっ、お腹空いた」
泣き声交じりに小さく笑いも添えられて呟く。
氷室もふっと息が漏れた笑いをしていた。
「どんなときもやっぱりお前らしい。ほら、早く服着替えて来い。飯食いに行こう」
「はい」
なゆみは素直に言うことを聞いた。
控え室に入り、ロッカーを開ける。
扉の部分に付いた鏡を見ながら、涙を拭った。
すっきりした自分が映っていた。
「何か食べたいものあるか」
控え室の向こう側で氷室の声が聞こえる。
「トンカツ」
「またあそこに行きたいのか」
「はい」
氷室がデザインしたものをもう一度見てみたかった。
氷室と一緒に。
そこが自分にも特別な場所に思えてならなかった。



