テンポラリーラブ物語

 力が抜けていたなゆみは、ふらつき、氷室の胸に倒れ掛かった。

 氷室を見て安心した途端、なゆみの目から涙が溢れてしまう。

「何かされたのか」

 なゆみは首を横に振った。

「でもびっくりした。すみません。もう大丈夫ですから」

 氷室から離れ、なゆみは一人で立とうとした。

「おい、無理するな」

 その時、なゆみの左の手、ちょうど親指の付け根辺りが切れて、血が出てるのを氷室は見つけ、目を見張った。

「その怪我、まさか、さっきの男に襲われたのか」

「襲われかけたけど、何もされてません」

「でも血がでてるじゃないか」

「ああ、これ、はずみで切っちゃったんでしょうね。大したことないです」

「とにかく、店に戻ろう。歩けるか?」

「はい」

 気丈にも洗い物を忘れずに、洗い桶をしっかりと手にしていた。

 氷室はなゆみの肩を抱いてやり、ゆっくりと階段を上っていく。

 店に戻り、なゆみを椅子に座らせて、常備していた救急箱を取り出すと、絆創膏を怪我したところに貼ってやった。