テンポラリーラブ物語

 店の左横にはビルの入り口があった。

 そこから地下に降りる階段が、入ってすぐのところにあり、下まで行けば、地下一階へ続いている。

 その一角に、ビルで働いている人が自由に使える給湯室が設置されていた。

 一番端の人気のない所に位置し、関係者しか入れないので、一般客は普通そこには訪れない。

 そこはビルの死角でもあり、人が来ない分、どこかの店の人とばったり鉢合わせになると、少しドキッとするくらい怖いときがある。

 いつ誰が使いに来るかわからないので、なゆみは緊張してしまう。

 早く済ませようと、慌てて洗っていた。

 その時、人の気配と共に、足音が近づいてきたのを感じたので、マナーとして声を掛けた。

「すみません。今使ってます。すぐ終わりますから」

 すると突然後ろに人が立っている気配を感じた。

 気の短い待てない人が、早く終われと催促しているのかと思ったが、ちょうど終わったところだったのでなゆみは笑顔で振り返った。

「すみません。もう終わり……」

 言葉が途中で途切れ、なゆみははっとして血の気が一瞬で引いた。

 そこにはサングラスとマスクをかけた怪しげな男が果物ナイフを持って立っていた。

 皮肉なことに、その給湯室の壁のところに貼られた『チカンに注意』という張り紙も一緒に視界に入った。