テンポラリーラブ物語


「ただ今戻りました」

 休憩を済ませたなゆみが戻ってきた。

 その後、すぐに千恵が休憩に出かけていなくなると、店に気まずい空気が流れ出した。

 氷室もなゆみもお互いを見ないようにぎこちなく、狭い空間で接点をなくそうとするのには無理があった。

 どちらもロボットのように、不自然にカタカタしていた。

 氷室を意識するなゆみ。

 なゆみを意識する氷室。

 沈黙が続けば続くほど、真空パックされていくように息苦しくなって行った。

 なゆみが外に面したショーケースの前に立つも、客足が遠のき、誰もやってこない。

 部屋の奥の隅のデスクで氷室は肘をついて、なゆみの後姿を見ていた。

 一向に振り返らないのをいいことに、声を出さずに「好きだ!」と口パクして叫んでみたが、虚しいだけだった。

 折角久々に二人きりになれても、何もできない自分に失望し背中を丸めていた。

 そんな時「キュルキュルキュルー」っと腹の虫が大きく鳴った。

 それは氷室ではなく、なゆみの方から聞こえた。

「おいっ、今のお前か」

 氷室がなゆみを問い質すと、なゆみの肩がびくっと動いた

「なんで昼飯食ったお前が、食う前の俺よりも腹空かしてるんだ?」

 なゆみはおもむろに振り向いて、笑って誤魔化した。

「えっ、いえ、その、へへへへ」

「何がへへへへだ。お前あの外国人と何してたんだ?」

「ええっと、その、実は、ショーンに引っ張られて床屋に連れて行かれたんです」

「床屋? 何しに?」

「日本語が話せないから、私に通訳になってくれって、それで髪を切る間ずっと彼の側にいました」

「それで飯食う暇がなかったって訳か」

「はい」

「お前、どこまでお人よしなんだよ。折角の休憩だろうが。しかも昼飯食べないと腹が空くことくらいわかってるだろ」