なゆみは「あっ」と声を漏らし、ぐいっと引き寄せられるままにジンジャの肩に体を持たせかける。

「暑いけどさ、ちょっと我慢しろ」

 そう言って、ジンジャは空いているもう片方の手を使い、なゆみのあごを指先で下から持ち上げた。

 大胆にも覆いかぶさるようになゆみにキスをする。

 なゆみは頭の中が真っ白で何も考えられず、体は硬直しジンジャにされるがままになっていた。

 なゆみには息が止まるくらいの衝撃的な長いキスに感じた。

「さて、体が熱くなったところであそこに行こうか」

「えっ? ど、どこへ?」

「カキ氷食べに」

 ジンジャは笑っていた。

 そしてすくっと立つと、なゆみに手を差し伸べた。

 なゆみはその手を取ると、恐ろしい速さで引っぱりあげられ、よろっとしてジンジャに倒れ掛かってしまう。

 ジンジャはつかさずぎゅっとなゆみを抱きしめた。

「ほら、釣れた!」

「ジンジャ、一体どうしたの?」

「お前はすぐにふらふらする癖があるからな。俺の意思表示さ。しっかり捕まえたってこと」

 なゆみは突然のジンジャの大胆さに戸惑ってしまった。

 まるで手綱を付けられたペットのように、無理に繋ぎとめられている気分だった。

 縄に括り付けるとは言われたが、自分はそんなにふらふらしているんだろうか。

 勘違いして泣き腫らし、自棄酒食らって酔っ払い、声を掛けられて宗教に引っかかり、考えたらその通りだったと簡単に納得してしまう。

 その全てのことに氷室が関わっていることにも気がつく。

 ジンジャとくっついたこの時、なゆみは本当にこれでいいのかと心揺れ動いている自分を感じていた。

 ジンジャがここまで自分を好きでいてくれた事を知れば知るほど、心は苦しくなっていく。

「ほら、もたもたするな」

 ジンジャに手を繋がれて引っ張られると、なゆみは足をもつれさせながら歩いていった。

 自分は一体どうしたいのかまだ答えが見つからずに、迷っているような歩き方だった。

 その日は夕方まで一緒に過ごし、月曜日は英会話学校が休みなので、火曜日の仕事が終わった後にラウンジで会う約束をしてから駅でジンジャと別れた。

 なゆみは電車の中でドア側に立ち、窓に映りこんだ自分を見ては無意識に唇を押さえてしまった。

 唇だけが熱を帯びていたような気がした。