会計でなゆみが勘定を払っている。

 その後ろを目立たないように氷室がコソコソと歩いて外に出て行った。

 なゆみは気がついていない。

 レストランの外で待っていたジンジャも目に入ったが、無視を決め込んでそのまま素知らぬ顔で素通りしようとした。

 だが、ジンジャは呼び止めた。

「氷室さん、でしたね」

 声を掛けられ立ち止まり、余計なことをしやがってと顔を歪めたが、振り返ったときは背筋を伸ばして上から目線で受け答えした。

「えっと、君は確かジンジャ君だね」

「伊勢達也です」

「伊勢君、俺になんの用だ」

「いえ、別に用はないんですけど、挨拶だけしておこうと思っただけです」

「そっか。わざわざありがとう」

「いえ、礼には及ばずです。ところで、今日はお見合いですか」

「君には関係ないことだ」

「そうですけど、とにかくいい結果になるといいですね。それから、俺達付き合い始めました。あの時、散々意味も分からない失礼なことを言われましたけど、俺、ずっと前からタフクが好きでした。ただ、身辺に色々あって、なかなか行動に移せなかっただけでした。でももうこれからは本当に俺の”所有物”となりましたから。それだけいいたかったんです」

「そっか、あの時はすまなかったな。よく状況がわからなくて、おままごとしているようなお前たちに、イライラして言ってしまった」

「本当にそれだけですか」

「どういう意味だ」

 二人は暫し無言で睨み合っていた。

「ジンジャ、お待たせ」

 なゆみが店から出てくると、目の前に氷室が居ることに驚いて、財布をしまおうとしていたリュックを落としてしまった。

 一緒についていたキティのマスコットも跳ね上がっていた。

「よぉ、斉藤。なんだこんなおしゃれな店に来るときもその鞄か」

 なゆみは慌ててリュックを拾い、ペコリと挨拶を兼ねた礼をする。

 ジンジャはなゆみの肩を優しく包み込み、歩くことを促した。

 それが氷室に嫉妬をけしかけた。