テンポラリーラブ物語

 例のごとく父親の足攻撃が始まる。

 まだ開き足りない口を無理やり閉じて歯を食いしばると、目じりから涙が出てきた。

 結構欠伸をかみ殺すのも苦しかった。

 だがほんのすぐ向こうにいるなゆみを見ればもっと苦しい。

「あっ、すみません。昨晩ちょっと考え事していると寝られなかったもので」

 幸江を通り越して向こう側に居るなゆみの後姿に焦点を合わせていた。

「ほんとにすみません。いい年なのに、全く自覚がありませんで」

 父親がフォローして、足攻撃を受けてもなゆみの後姿から目が離せなかった。

 ジンジャとここに来てると言うことは、理由はなんであれ、あの二人は上手くいったということだろう。

 氷室は胸の痛みをずきずきと感じながら、落ち着かない気持ちを沈めるために目の前のグラスを手にとって水を一気飲みしてしまった。

 まるで自棄酒のような飲み方だった。

 しかし緊張している姿と取られたのか、幸江の両親は温かい目で氷室を見ていた。

 だが、氷室はまだ飲み足りないと、父親のグラスにまで手をかけて飲んでしまった。

「コトヤ!」

 父親はまた足を蹴ると、その弾みで水が変なところに入り氷室はブーと水を噴出してしまった。

 これには前に座っていたものは仰け反った。

 氷室は咳き込み、父親は慌ててナプキンを持って右往左往している。

「どうもすみません。コトヤ、お前はなんてことを。いい年こいて恥ずかしい」

 まるで幼児が食事中上手く食べられないで親に叱られているようだった。

 32歳にしては情けない一面だった。

「いや、氷室さん、いいんですよ。緊張すると何をするかわからないもんです。私も妻と初めてあったときは同じような失敗してました。アハハハハハ」

「嫌ですわ、お父さんたら」

(こいつら何のろけてんだ)

 氷室は咳き込みながら、苦しんでいるんだと見せかけて気に入らない表情をそこに織り交ぜて呆れていた。