テンポラリーラブ物語

 クラスが終わった後、なゆみが鞄に仕舞い損ねて、筆記用具を落としてもたもたと拾ってる間に、皆さっさと教室から去っていった。

 ジンジャと二人っきりになってしまった教室。

「相変わらず、ドジだな」

「だって、このサイドテーブル小さいんだもん」

 文句を言っているその口に、ジンジャがそっと近づいて、さりげなくキスをしてきた。

「やだ、ジンジャったら、こんなところで」

「こういう所だからいんじゃないか」

 確かに誰かに見られるんじゃないかというハラハラ感と、いけないことをしているドキドキ感で体が熱くなってくる。

 なゆみは頬を染めもじもじとしていた。

「タフクは初心なんだな」

「急だったし、場所もアレだったし……」

 なゆみが困れば困るほど、ジンジャは楽しそうに笑っていた。

 なゆみとジンジャとの間の壁がなくなり、二人はすでに初々しいカップルだった。

 付き合うということが初めてのなゆみにとって、それはドキドキとしてしまうが、その一方で一歩踏み込めないものがあった。

 まだ慣れてないだけだと思う事で、今のところは処理していた。

 自分も積極的になれば、この気持ちは克服できると信じ、付き合うという事ですら、なゆみは一生懸命になろうとしていた。

「さて、これからどこへ行く? タフク行きたい所あるのか? その前に、なんか食いに行こうか」

「ねぇ、ジンジャ。就職決まったのに、まだお祝いしてなかったね」

「そんなのいいよ」

「だったらさ、今からおいしいもの食べに行かない? 少し豪華に。もちろん私の奢り」

「おい、無理するな」

「いいじゃない、一応毎日働いて、それなりに給料は貰ってるよ。ずっと使わずに貯めてたし、目標額余裕で超えそうなんだ。それに行ってみたいお店があるの。駅前のホテルに入っているフレンチレストランなんだ」

「そんな高そうなところ」

「だから、就職祝いって言ってるでしょ。ねぇ、行こうよ」

 なゆみはジンジャのシャツをひっぱった。

 先ほどのキスが後を引いているのか、恥らっている笑顔がかわいい。

 ジンジャはなゆみのその魅力に目が細まった。

「そうか。それなら行こうか」

「うん。決まり」

 そのレストランを選んだのは、ミナ達が話題にしていたからだった。

 ただそれだけの偶然だったのに、そこへ導かれてしまったのは他にも意味があったのかもしれない。