テンポラリーラブ物語

「もちろん大丈夫に決まってるでしょ。あのさ、前に、授業が終わった後、用事があるから先に帰るとか言った日覚えてる?」

 ジンジャはその日のことを思い出す。

 坂井に呼び止められて、なゆみと二人になりたいから先に帰ってくれと頼まれた日だった。

「おお、あのとき坂井と一緒に帰ったんだろ。なんかあったのか」

「別に何もなかったけど、坂井さんに”風船の寅さん”とか呼ばれたくらい」

「風船の寅さん? なんだそれは」

「それはどうでもいいんだけど、ジンジャはあの時、ユカリさんと一緒だったんじゃないの?」

「どうしてそうなるんだ。さっきもそうだけど、なんでその人がいちいち出てくるんだ? あの後急いで一人で家に帰ったよ」

「でも次の日の夕方、ユカリさんと英会話学校一緒に行ったんじゃなかったっけ」

「ああ、歩いてたらそういえば彼女と偶然会った。でも、よく知ってるな。あの時、そのまま帰ろうとしたら、英会話学校寄って行かないんですかって言われて、その日、土曜日でイベントのパーティがあっただろ。それをあの人が教えてくれて、それならちょっと覗きに行こうって寄ったんだ。てっきりタフクがいるかと思った。そしたら帰り際に氷室って奴と変なところから出てくるし、びっくりした」

「えっ!? ええーー」

「あの時、俺も大人気なかったな。タフクは訳の分からないこと言うし、酒に酔ってたのかしらないけど、話が噛み合わなくて、しかも氷室とあんなところから出てくるから腹立つし、それで怒っちまった。ごめん。それは謝りたかった」

 あまりの勘違いに、なゆみは顔面蒼白になっていた。

「次の日、電話くれたときもさ、土曜日のあの日、家に帰ったら就職の採用不可って通知が来てて、そこ第一志望だったからそれで日曜日ずっと気分が晴れなくて、 前日のこともあったしお前に八つ当たっちまった。ほんとにごめんな。それ以来、就職活動で焦って心の余裕はないし、タフクに合わせる顔もなかったから、英会話学校も遠ざかってしまったんだ。そしてやっと就職内定もらえたから落ち着いて、それでタフクにきっちりと話さなきゃって思ってた。だけどなかなか面と向かって言えなくて、それでとにかく二人っきりになりたくて今日映画に誘ったんだよ」

 全てがなゆみの思い込みだった。

 真実はあまりにも偶然に歪み過ぎて、遠回りばかりしていた。

 ショックのあまり暫く動けなかった。

「おい、大丈夫か? そんなに驚くことないだろう」

 ──それが大いにあるんですよ。

 上手くそれを説明できない。

「タフク、あんまりゆっくりしてられないぞ。ちょっと急いで食べろ」

「あっ、はいっ」

 その後は何が起こったか頭がこんがらがって、思考回路も停止状態のまま、気が付くとなゆみは映画館へ向けてジンジャと走っていた。

 その時、先を走るジンジャはなゆみの手をしっかりと握っていた。