テンポラリーラブ物語

 本店のシャッターの前で紀子が待っていた。

「サイトちゃん。久しぶり。どうしたの、その格好。化粧までして、なんだかサイトちゃんじゃないみたい」

「えっ、そうですか。いや、でもお久しぶりです。折角来て下さったのに一緒に行けなくてごめんなさい」

「いいよいいよ、こうやって会えたし。そんな姿のサイトちゃん見られてなんかいいことが起こりそうな気がする。すっごいかわいい」

 紀子は同意を求めるように千恵の顔を見れば、千恵も笑いながら頷いていた。

「そ、そんなにいいですか?」

 その時、ミナもシャッターを潜って出てきた。

「ひや~、サイトちゃんどうしたの、その格好。女の子してるじゃない」

「もう、そんなに驚かないで下さい。私だってスカートくらいもってますよ」

 皆でがやがや喋ってると、美穂と奈津子とその他のアルバイト、そして純貴と最後に氷室もシャッターをくぐって出てきた。

「どうもお疲れ様です」

 なゆみと千恵は条件反射で挨拶をする。

「おお、斉藤さん。なんか今日はいつもと違うね。すごくかわいいよ。結構イケるじゃないの」

 まじまじとなめまわすように純貴は見ていた。

 氷室は、目を伏せ気味にぼそっと呟いた。

「馬子にも衣装か」

 予期した通りの反応に、なゆみは思わず千恵と顔を合わせていた。

 氷室は背中を向け、シャッターを下げて鍵を閉めていた。

 ほんの少し会わなかっただけで、また氷室を遠くに感じてしまう。

 助けてもらった時は、手まで繋いで心が通いあったというのに。

 いくら忘れろと言われたとは言え、完全になかった事になって、以前の氷室に戻ってしまう程、優しく変わった部分までが抜けている。

 またそのギャップが激しい。

 碌にお礼をしなかったことがやっぱり悪かったのだろうか。

 目も合わせない氷室が、怒っているように見え、なゆみは動揺してしまった。

「サイトちゃん、急いでるんだったらもういいよ。来てくれてありがとうね」

 紀子が勘違いして、なゆみはそれに流されてしまう。

「ご、ごめんなさい。それじゃ、紀子ちゃんまた今度ゆっくり会おうね。それじゃみなさんお先に失礼します」

 みんながなゆみと挨拶を交わしているどさくさに紛れて、氷室の声が聞こえた。

「映画楽しんでこいよ」

 なゆみはどきっとし、振り返って氷室を見ると、氷室はすでに背中を向けて一人歩いていた。

 その姿に居た堪れなくなって、振り切るようにその場を去った。