テンポラリーラブ物語

 千恵と肩を並べて、他愛のない話をしながらなゆみは本店に向かって歩いていた。

 なゆみが氷室の事を気にしていると、千恵がそれを口にした。

「氷室さんが、今日のサイトちゃんを見たらなんて思うだろうね」

「別に何も思いませんって。でも嫌味で『馬子にも衣装』なんていうかもしれません。あの人捻くれてるから」

「そうかな、氷室さん最近丸くなった感じがする。あの川野さんまでもが、そう言うくらいだからかなり変わったみたい」

「そ、そう?」

 無関心を装ってみたが、氷室の噂話にはドキッとする。

「サイトちゃんが来てから氷室さんは変わったように私も思う」

「気のせいじゃないですか」

「さあ、実際のところどうだろうね……」

 千恵の言い方には何か含みがあるようだった。

 氷室が変わった──

 それはなゆみが一番最初に気がついたことだった。

 何か言えば、きつい言葉しか返ってこなかったし、気に障ることがあれば態度に出て、力づくでもねじ伏せようとする無茶な人だった。

 押し倒されたり、ホテルに無理やり連れて行かれたり、体を張ってそれはなゆみも体験している。

 しかし、それが氷室の心の奥底と関係していて、決して本心からではなかったのは疾うに気がついていた。

 その殻がやっと破られて、本来の氷室の姿が現れてきている。

 なゆみだけが知っていた氷室の本当の姿が他の皆も気がつき始めた。

 どこか自分から何かを奪われるような感覚を感じてしまい、一抹の寂しさが出てくる。

 何も自分の物でもないのに。

 足元を見れば、スカートの裾がヒラヒラしていた。

 スース―と風が抜け、心の中までも通り抜けたように思えた。