テンポラリーラブ物語

 レッスンが終わった後、その日一緒だったクラスの皆と固まって歩いていた。

 ジンジャがなゆみと肩を並べ、皆より少し遅れた歩調で歩き出すと、自然と皆と距離ができていた。

「タフク、なんか落ち着いてる感じがする。あんなにふらふらしてたのに」

「最後のあんなにふらふらしてたのには蛇足じゃ!」

「ハハハハ、タフクは弄られる性質なんだよ」

 なゆみも合わせて笑っていた。

「なあ、今度映画でもいかないか。あまり二人でどっか行くってことなかったな」

「えっ? ジンジャと私が映画に?」

「嫌か?」

「ううん、もちろん嫌な訳ないじゃない」

「ちょうど見たい映画があるんだ。坂井と一緒に行っても男同士じゃ面白くないし、たまにはタフクと二人でいくのもいいかなって思って」

「私も見かけは少年っぽいぞ」

「そっかな、充分俺にはかわいい女の子に見えるけどな」

「えっ? い、いやだ、いつもそこは突っ込んでからかうのに、なんかジンジャらしくない」

「俺らしくないか。俺ってタフクからしたらどんな目で見られてるんだろう」

「どんなって、そりゃかっこよくて、優しくて、えっと、それからえっと……」

「なんだよそれ、褒められて嬉しいけどあんまり俺の中身とか分かってないじゃないか」

 なゆみはジンジャについてあまり多くを語れない事に今更気が付いた。

「ほら、タフクの上司のなんていったっけ、あの冷血漢。アイツのことならタフクはまだ知り合って間もなかった頃に一杯あれやこれやって言ってたよな」

「それって悪口だったじゃない」

「でもその後、奴のことはどんな風に見える?」

「えっ、氷室さんのこと? あの人は……」

 なゆみは言いかけたが、その後は心の中で答えていた。

(冷静で、物事を一歩下がって見られて、きつい言い方するけど、その人のために言葉選んでいつも的確で、それから冷たいけども困ったときは力を貸してくれて、そして危険を冒してでも助けてくれる。それから、ちょっと怖くみえるけど本当は隠れて優しくて、頭もよくて、才能があって、それからそれからとても頼れる)

 なゆみは黙り込んでしまった。

「どうした。やっぱりまだ失礼な奴なのか」

「ううん、もう離れてしまってあんまり会わないから、わかんないや」

 誤魔化してしまった。

「そっか、苦手だっていってたから、離れられてよかったな。実はさ、もう映画のチケット買ったんだ。タフクの店で。その氷室って言う人が接客してくれたよ」

「えっ、氷室さんが……」

「そしたらアイツ、”斉藤と行くのか”なんて客の俺に聞くんだぜ。”もちろん”って答えたけどな」

「えっ? 氷室さんと喋ったの?」

「ああ、相変わらず失礼な感じがしたよ。まあ、あいつの事はどうでもいいけどさ、映画いつ行く? 今週の土曜日、仕事終わってから行こうか?」

「えっ、う、うん、オッケー」

 その後、駅で手を振りながらジンジャと別れた。

 どっと疲れたようで、階段を上る足がだるかった。

 7月に入った夏の夜、もわっとした暑さが残る気温の中、湿気を沢山吸い取ってしまったように足が鉛のように感じた。