テンポラリーラブ物語

 宗教の事務所が入っているビルの前に来ると、ジョンがいつものように待っていた。

「あれが、ジョンだな」

 氷室は突然なゆみと手を繋いだ。

 なゆみはびっくりして氷室の顔を見ると、氷室は心配するなと目で合図した。

「ハーイ」

 氷室はジョンに物怖じせず挨拶する。

 キョトンとしているジョンに向かって、氷室が流暢な英語を話し出すと、ジョンはだんだん眉間に皺が寄って不快な顔つきになっていった。

 氷室が突然英語を話したことでなゆみはびっくりし、咄嗟に頭が働かなかったが、所々にフィアンセや近づくな、訴えるぞというような単語が耳についた。

 ジョンと互角にやりあった後、無遠慮に事務所の中に入っていく。

 なゆみは氷室に手をしっかり握られて、身を委ねるようについていった。

「責任者はいるか?」

 騒がしく氷室が叫んだ。

「一体あなたは何ですか。警察を呼びますよ」

 池上カスミが普段見せたこともない嫌悪感を抱いた顔で氷室に突っかかった。

「ああ、上等だ。呼べばいい。こっちはもう弁護士の手配をしている。氷室といえば、あんたもその名前を聞いたことがあるんじゃないか」

 池上が素早くそれに反応し、顔を歪ませた。

「いいか、氷室弁護士は俺の父だ。そしてここにいる、斉藤なゆみは俺のフィアンセだ。これ以上なゆみに近づくとまたお前たちを訴えてやる」

「ひ、氷室さん……」

 なゆみは心配のあまり、繋いだ手に力を入れてギュッと握りしめた。

 それに応えるように氷室も同じように握り返していた。

 池上は都合が悪くなりながらも、なゆみに罪悪感を抱かせようと試みた。

「なゆみさん。本当にそれでいいのですか。折角築き上げたことを破壊してまで、その悪魔の言うことを鵜呑みにしてしまうのですか」

「あんたはまだそんなことを」

 氷室があきれ返った。

 だかそれよりもなゆみが切れた。

 氷室を悪魔呼ばわりされて黙っていられなくなった。

「悪魔はあなたたちよ! 純粋な人の気持ちを利用して信じ込ませて、そしてその人から夢や希望までも取り上げようとした。そんなことができるのが悪魔なんじゃないの。私は、こんなところ嫌です。あなたたちこそ、地獄に落ちるんじゃないんですか」